第1章

エララ視点

「離して! 子が産まれるの!」

 私は竜骨でできたドア枠を掻き毟り、刻まれたルーン文字に爪を立てて割った。稲妻のような陣痛が走る。皮膚の下で鱗が明滅し、表面に現れようとしては、足元から這い上がってくる冷気によって無残に押し殺されていく。

 ヴァンスは私の指を一本ずつ引き剥がした。そこには何の感情も、躊躇いもない。

「ケール様のご命令だ」彼は私を階段の方へと引きずっていく。「『氷牢の間』が貴様の竜の炎を抑え込む。卵は孵らない。セリーヌ様の卵が先に殻を破るまで、そこで待つんだな」

「正気なの!?」羊水が脚を伝って流れ落ちる。「卵が凍えてしまうわ!」

「ローマン様の血統が最優先だ」彼の声は氷のように冷たかった。

 氷牢の間。

 古代の氷龍の骨から造り出されたその場所は、壁という壁に抑圧のルーンが刻まれ、おぞましい青い光を放っていた。空気は古い血と竜の髄の悪臭に満ちている――ここはヴェイロン家が裏切り者を処刑する場所なのだ。

 ヴァンスは私を床に突き飛ばした。刃のような冷気が背筋を貫く。彼は通信水晶を取り出し、通話を繋いだ。

「ケール様。女を氷牢に入れました。破水しています。ルーンの陣で抑え込めるはずです」

「まだ騒いでいるのか?」水晶越しに聞こえるケールの声は、疲労と苛立ちに満ちていた。

 騒いでいる?

「ケール!」私は水晶に向かって叫んだ。「私よ! 今、私たちの子が産まれそうなの!」

「ふざけているのか? 今だと?」彼の一言一言から苛立ちが滴り落ちる。「セリーヌがもうすぐ産気づくんだ。二時間くらい我慢できないのか?」

「我慢!? 竜の炎はもう消えかかっているのよ……ルーンに全部吸い取られて――」

「俺のベッドに潜り込んだ時は、見事なタイミングを見計らっていたくせにな」彼の笑い声は氷のようだった。「計算の仕方を忘れたとでも言うのか?」

 その記憶が私を打ちのめした。一年前。あの雨の夜――氷龍の者たちによるローマンの闇討ちの報せ、薬を盛られたスープで意識を失ったケール、そして目覚めた時の彼の激怒……。

「私はただ、栄養スープを持っていっただけ! 私は何も……」

「栄養だと?」彼は怒りを爆発させた。「てめえが惚れ薬を混ぜたんだろうが! てめえのその忌々しい薬のせいで、ローマンは――」

「ケール……痛い……怖いよ……」

 水晶越しに、セリーヌの啜り泣く声が聞こえてきた。柔らかく、儚げで、そして完璧な声。

 すると途端に、彼の声は一年間聞いたこともないような甘いものへと溶け去った。

「ああ。怖がらないで。息を吸って。もうすぐ卵が出るよ」

「この子、私たちに会うのが待ちきれないみたい……」セリーヌの笑い声は絹の囁きのようだった。

「きっと勇敢な子になるさ。父親に似てね」

 その言葉のすべてが、私の胸を抉るナイフとなった。

 同じ状況。二人の妊婦。一人は優しさを与えられ、もう一人は凍てつく地下牢に放り込まれる。

「ケール……」私の声は掠れていた。「私の卵にも、温もりが必要なの……お願い……」

「お前の卵だと?」彼は鼻で笑った。「まだ腹に抱えていられるだけでもありがたいと思え。でなければ、数ヶ月前にはブラッドウルフの餌になっていたはずだからな」一拍置いて、彼は言った。「ヴァンス。奴に氷結の血清を打て」

 水晶の通信が切れた。

 ヴァンスはケースに手を伸ばし、氷のように青い液体が満たされた注射器を取り出した。その光はまるで生き物のように脈打っている。

「それは、何?」

「氷結の血清だ。貴様の卵を、もう少し長く休眠状態にしておくためのものだ」

「やめて!」私は後ずさりした。「そんなことをしたら、死んでしまうわ!」

「死にはしない。ただ……待つだけだ」彼は片手で私の腕を掴んだ。「貴様はローマン様がこの一族にとってどれほど重要な存在だったか、分かっていない。もし先代様が死の間際に、ケール様に貴様のような名もなき混血との結婚を強要していなければ――」

 針が私の血管に刺さった。

 氷が血流に流れ込んでくる。ただ冷たいのではない――それは生きていた。無数の氷の針がすべての血管を食い破り、卵へと這い進んでいくかのようだ。私と子を繋ぐ血の繋がりに血清が絡みつき、締め付け、窒息させていくのが分かった。

「ローマン様は死ぬべきではなかった」ヴァンスの目は嫌悪に満ちていた。「貴様はヴェイロン家の呪いだ。すべての狂いは、貴様から始まっている」

 彼は注射器を片付けると、一度も振り返ることなく立ち去った。

 重い鉄の扉が閉まる。

 血清の効き目は早かった。

 私の卵の中で感じていた生命の律動――何ヶ月もの間、毎日確かに伝わってきたあの温かな鼓動が、感じられなくなった。

 遅くなる。

 弱まっていく。

 私は両手を腹に押し当て、凍てつく竜骨の床の上で身を丸めた。周囲のルーンが青い光を放ちながら唸り声を上げ、私に残されたわずかな温もりすらも飲み込んでいく。

「赤ちゃん……」私は囁いた。「諦めないで。お母さんは、ここにいるから」

 ドクン。

 弱い。

 ドクン。

 さらに弱く。

「お願い……お願いだから、頑張って……」

 もう、ほとんど何も感じない。

 指先の感覚がない。脚の感覚もない。唯一感じられるのは、消えゆく小さな鼓動だけ――私の赤ちゃんが、一拍ごとに私から遠ざかっていく。

 私は目を閉じた。竜の炎を卵に向かって押し出そうとする。だが、何もない。ルーンがすべてを喰らい尽くしてしまったのだ。

 ごめんね、赤ちゃん。お母さん、あなたを温めてあげることすらできない。

 涙はこぼれ落ちる前に、頬の上で凍りついた。

 時間の感覚が薄れていく。数分か。あるいは数時間か。冷気がすべてを貪り食った――思考も、希望も、抗う意志も。

 私の意識が途絶えかけたその時、再び鉄の扉が軋む音を立てて開いた。

 ヒールの音。鋭く、意図的に、竜骨の床を叩く音が響く。

 私は腫れ上がった目を無理やり開けた。

 ケールの妹であるニーラが、私を見下ろして立っていた。彼女の右手には、地面を引きずる武器が握られている――氷龍の牙を編み込んで作られた鞭。その鎖状の節々が、貪欲な青白い光を放っていた。

「氷骨の鞭」だ。

 彼女は小首を傾げ、微笑んだ。

「騒いでるって聞いたわよ」彼女は鞭を一度鳴らした。その音が四方の壁に反響する。「兄上が私を遣わしたの。『我慢する』ってことがどういうことか、あなたにたっぷり教えてやれってね」

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