第2章

エララ視点

 悲鳴のような風切り音を立てて、氷骨の鞭が振り下ろされた。

「あああっ――!」私はお腹をかばうように丸くうずくまった。「ニーラ、お願い……この子はあなたの姪か甥になるのよ……」

「姪だか甥だか知るもんか!」彼女は血走った目で再び鞭を振り上げた。「あんたは一番上のローマン兄を殺し、二番目のケール兄まで奪ったのよ、この混血の売女!あんたなんかに、兄上の卵を宿す資格なんてない!」

 二撃目が私の肩を捉えた。

 私の体は本能的に反応した――防御のための鱗が表面に現れ、ほんの一瞬だけ黄金色に煌めく。しかし、鞭に編み込まれた氷竜の牙が、それを根こそぎ引き裂いた。飛び散った鱗と血が、凍てついた床を汚していく。

 生きたまま皮を剥がれるような、こんな激痛は初めてだった。

「私はローマンを殺してなんか……」

「黙れ!」彼女のブーツがお腹に向かって蹴り込まれる。私は間一髪で両腕を交差させ、その衝撃を前腕で受け止めた。「あんたの魂胆なんてお見通しなのよ。ケール兄を誘惑して、孕んで、その卵をダシにして権力を握ろうって腹でしょう?」

 息をつく間もなく、彼女の膝が私の脇腹に深々と突き刺さった。私は崩れ落ち、口の端から血の泡を吹いた。

「ケール兄はこれまで、他の女になんて目もくれなかった」ニーラはピンヒールで私の指を踏みつけ、グリグリと捻った。「あんたが這い寄ってくるまではね」

「お願い……やめて……」

「どんな汚い手を使って、お祖父様に結婚を強要させたの?」彼女はさらに強くヒールを捻った。私の手の中で、何かが砕ける嫌な音がする。「血統も、家柄も、名前すらない、どこの馬の骨とも知れない混血のくせに――いけしゃあしゃあとヴェイロン家に上がり込んで!」

 陣痛のような激しい痛みが体を駆け抜けた。

 体の奥で、卵が震えていた。健やかな鼓動ではない。必死で、弱々しい、微かな震え。

「よくもまあ、図々しくあの人の子を身籠れたものね!」彼女は再び私のお腹を蹴り上げた。私はかろうじてそれを防いた。「ローマン兄が死んだ後、ケール兄はこの家を立て直さなきゃいけなかったのよ。あんたみたいな寄生虫に縛り付けられてる場合じゃなかったのに!」

 私はありったけの力を振り絞って、お腹を庇った。背中がルーンの刻まれた壁に激突し、鈍い音が響く。脊髄全体が麻痺したように感覚を失った。

「ニーラ……お願い……出ていくわ。ヴェイロン家から出ていく。もう二度とあなたの前には現れないから――」

「出ていくですって?」彼女は私の髪を鷲掴みにし、壁に頭を打ち付けた。「私と兄上の間にあるものを全部ぶち壊しておいて、自分だけ逃げられるとでも思ってるの?」

 額から温かい血が流れ落ちる。視界の端がぼやけ始めた。

 彼女が手を離すと、私は骨を抜かれたように床へ崩れ落ちた。

 ニーラは壁のルーン制御盤へと歩み寄った。一度。二度。三度、パネルを叩く。

「よし。抑制レベルを1から3へ引き上げたわ」彼女は自分の爪を眺めながら言った。「こんな無様な姿、ケール兄に見せるわけにはいかないものね。あの人、甘くなっちゃうかもしれないし」

 凄まじい冷気が、壁のように襲いかかってきた。

 私の中に残っていた竜の炎の残り火――私と卵を繋ぎ止めていた、最後の微かな揺らめきでさえも、完全に吹き消されてしまった。歯の根が合わず、ガチガチと震えて自分の舌を噛んでしまうほどだった。

「ヴァンス!」ニーラはドアに向かって叫んだ。「誰か呼んで、この惨状を片付けさせなさい!」

「かしこまりました、お嬢様」

 彼女は最後にもう一度私を見下ろし、唇を舐めた。

「せいぜい楽しんで。私のものを奪おうとするとどうなるか、思い知るがいいわ」

 重厚な鉄の扉が、冷酷な音を立てて閉ざされた。

 私は自分の血だまりの中に横たわっていた。体の隅々までが悲鳴を上げている。周囲では抑制のルーンが脈打っていた――レベル3となったそれは、飢えた獣のように容赦なく、私からとうに失われた熱をさらに奪い去っていく。

 どれくらいそうしていたのか分からない。

 再び扉が開いた。バケツと雑巾を持った、低位血統の半竜の召使いであるレナが、おずおずと入ってくる。彼女は私を見つけるなり、膝から崩れ落ちた。

「なんてひどいこと……奥様……」

「レナ……」私は顔を上げるのがやっとだった。

 彼女は私のそばに這い寄り、両手で口を覆った。すでにその目からは涙が溢れ落ちている。「鱗が……ああ、神様、奥様の鱗が……」

「もう……長くは保たないわ……」

 彼女は唇を噛み締めた。その瞳の奥で、恐怖と、それよりも強い何かが葛藤しているのが見えた。

「奥様……私に、何ができますか?」

「レナ……私の代わりに、共鳴信号を送ってくれる?」

 彼女は躊躇したが、やがて頷いた。

 私は彼女に周波数を伝えた。父のプライベートチャンネル――血の繋がった家族にしか分からないものだ。彼女は震える手で、ドレスの胸元から小さな通信符を取り出した。

 外から足音が聞こえた。

「レナ! まだ終わらないのか? ケール様が視察にいらっしゃるぞ!」ヴァンスの苛立った声だ。

「も、もうすぐです!」彼女は慌てて通信符を服の中に隠し、血を拭き取るふりをした。

 ヴァンスが顔を覗かせ、死んだような目で部屋を見渡した。「急げよ」

 足音が遠ざかっていく。

 レナは私の手を強く握った。「奥様……やってみます。どうか持ちこたえてください。約束ですよ」

「ありがとう、レナ……」

 彼女は道具をまとめると、逃げるように部屋を出て行った。

 彼女の背後で、鉄の扉に鍵がかけられる音がした。

 寒さと痛みが、私の残された生命力を蝕んでいく。私は両手でお腹を抱き抱え、押し当てるようにして、生命の兆候を探った。

 しかし、腹の中の卵は、ほとんど動かなくなっていた。

 ほとんど。

 数分が過ぎた。あるいは数時間かもしれない。あまりの寒さに、時間の感覚すら奪われていた。

 その時――頭上から、微かな擦過音が聞こえた。

 天井の換気口のパネルが動いた。ズレて、横にスライドする。

 開いた穴から、赤く紅潮し、恐怖に怯えたレナの顔が覗いた。

「奥様! ロープを掴んで――今すぐ!」

 彼女は痛みに悶える私を、少しずつ使用人用の通路へと引きずり上げた。引っ張られるたびに傷口が開き、激痛が走る。私は悲鳴を上げないよう、唇を噛み破った。

「レナ……信号は……繋がった?」

「応答はありません!」彼女は私の手首を引っ張りながら、先を這って進んだ。「三回送りました。でも、何の返事もなくて。それでも……あの地下牢で奥様が死んでいくのを黙って見ているなんて、絶対に嫌です!」

 絶望で心が沈んだ。しかし、悲しんでいる暇はない。まだだ。

 通路の突き当たりから、月明かりが差し込んでいる。私たちは外の空気に転がり出るようにして抜け出し、裏門へとよろめきながら向かった――そこは、ブラッドウルフの巡回ルートの唯一の死角だった。

 夜風が顔を打つ。火山灰と野草の匂い。

「あそこ! あそこです――」レナが暗闇を指さした。

 あと二十メートル。十メートル。五メートル。

「あら、あら。二匹の小さな虫けらが。ずいぶんと逃げ足が早いのね」

 ニーラの声が、私たちの背後から降りかかってきた。

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