第1章

「私の誕生パーティーの最中、夫の司は電話に出ると、フランス語でこう言った。『お前が欲しくてたまらない。気が狂いそうだ。いつもの場所で待ってろ』」

彼は私に背を向け、声を潜めていた。

「何も着るなよ、あの股割れの赤いヤツだけにしておけ」

ふふ、と低い笑い声。

「妊娠中のお前は締まりがいいからな、おかしくなりそうだ」

近くにいた数人のフランス人クライアントが顔を見合わせ、苦笑しながら首を振った。

司は私が聞き取れない何かをもう一言呟くと、電話を切って振り返り、何事もなかったかのように私の腰に腕を回して戻ってきた。

「退屈したか?」

「随分と流暢なフランス語ね」と私は言った。

彼は一瞬だけ動きを止め、それから笑い声を上げた。

「山田の娘が結婚することになってな。親父さんが緊張してて、昔俺がどうプロポーズしたか聞いてきたんだ」

彼の指が私の脇腹をなぞる。

「適当にロマンチックな作り話をしてやったのさ」

私は彼の目をじっと見つめた。

七年前、父と私の初恋の人である徹が死んだ後、葬儀で崩れ落ちそうになった私を支えたのは司だった。彼は「これからは俺が一条家を背負っていく」と言った。私は彼を信じた。残された家業も、父の古い付き合いも、私の最後の信頼の欠片さえも、すべて彼に委ねてしまった。

今、彼の瞳には優しさと疲労が浮かんでいた――浮気をしている男が抱くべき罪悪感以外は、すべて。

彼は、私がフランス語を習得していることすら知らなかった。

徹が教えてくれたのだ。

『沙耶、俺はいつもお前を守れるわけじゃない。自分自身で真実を理解できるようにならなきゃいけないんだ』と彼は言った。

その後、徹は殺された――後頭部から額へと銃弾を貫かれて。ICUの外で司は私を抱きしめ、「必ず犯人を見つけ出す」と言った。

だが犯人は見つからず、私は黒木夫人としてここにいる。

彼は親指で私の目の下を拭った。

「疲れたか? ケーキカットをしたら、すぐに帰ろう」

「ええ」

私は答えた。

ポケットの中で携帯が震えた。理奈からのメッセージだ。私が六年間支援してきた美大生であり、かつては妹のように思っていた少女。

[沙耶さん、パーティー楽しんでる? 司さんが、私の分のケーキも取っておいてくれるって]

添付された写真には、彼女の寝室のナイトスタンドが写っていた。去年私が贈った陶器の人形。だが、そのフレームの端には、男物の腕時計が写り込んでいた。

去年、私が司の誕生日に贈ったものと全く同じ時計だ。

私は画面を消した。

三ヶ月前、この同じ別荘でのことを思い出す。私は陽性の妊娠検査薬を手に、彼を驚かせようとしていた。だが書斎のドアの外で、理奈の涙混じりの声を聞いてしまったのだ。

「妊娠したの……司さん、どうしよう?」

司からの長い沈黙。

やがて彼は言った。

「とりあえず仕事を休め。沙耶に知られるわけにはいかない」

理奈は泣きながら言った。

「責任、取ってくれないの?」

「違う」

司の声が冷たく響いた。

「理奈、お前にはきちんとした場所を用意してやる。俺たちの子は何の問題もなく生まれてくるさ」

私は壁にもたれかかり、下腹部に走る鋭い痛みに耐えた。

その後、医者にはストレス過多で妊娠継続が不安定だと言われた。私は司に子供のことを告げず、ただの胃腸炎だと嘘をついた。

彼は二日間私に付き添い、三日目にニューヨークへの出張へと旅立った。

彼のスーツケースの隠しポケットから、パリ行きのホテルの予約票が二枚見つかった。彼の名前と、理奈の名前で。

「黒木様、そろそろケーキ入刀のお時間です」

執事が静かに告げた。

私はホールに戻った。司は私の手を取り、私たちはケーキにナイフを入れた。カメラのフラッシュが焚かれる。記者が声を張り上げた。

「黒木さん、結婚五周年にあたり、奥様に一言お願いします!」

彼は私の頬にキスをし、カメラに向かって微笑んだ。

「これからの五年も、その先も、俺は彼女を愛し続けると誓います」

拍手が沸き起こった。

私も合わせて微笑みながら、手のひらに爪が食い込むほど拳を握りしめた。

ついさっきまで、今夜の情事で愛人にあの股割れの黒いストッキングを履かせる話をしておきながら、よくもぬけぬけと私を永遠に愛するなどと宣言できたものだ。

あまりの悍ましさに、吐き気がした。

マフィアのボスの妻たちが数人、こちらへ流れてきた。その一人が、私に聞こえるような声でため息をついた。

「沙耶さんもここ数年で……すっかり老けたわね」

「昔はあんなに輝いていたのに。一条家の一人娘。宗一郎さんが生きていた頃は、神童なんて呼ばれてたものよ」

「ほらね? やっぱり専業主婦なんて、彼女には似合わないのよ……」

パーティーがお開きになり、司が実業家たちとの話し合いに引き留められると、私は一人で会場を後にし、運転手に告げた。

「旧川沿いの屋敷へ」

そこは何年も空き家になっていた。父が死んで以来、一度も戻っていない場所だ。

だが今夜、そこから回収しなければならないものがあった――父の裏社会の連絡先リストと、スイス銀行の貸金庫の鍵だ。

それらを手に入れ、帰宅する途中で電話が鳴った。宅配業者からだった。

「黒木様、至急のお届け物がございます。ご本人様の署名が必要です」

私は運転手に急ぐよう伝えた。

封筒は薄かった。私はそれを引き裂くように開けた。最初の一行が目に突き刺さる。

『離婚申立書』

玄関の鋭い照明の下、私は一言一句を目で追った。「妻は自発的にすべての婚姻財産を放棄する」という一文に差し掛かった時、ガラスドアの風鈴が鳴った。

ネクタイを緩めた司が入ってきた。

彼の視線が、私の手にある書類に落ちる。彼は一瞬、凍りついた。

それから、ゆっくりと歩み寄ってきた。

「沙耶、これは一体なんだ?」

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