第2章

書類を折りたたみ、封筒に戻す。

「友達が離婚するの。彼女、画廊を開きたいから私に出資してほしいって」

「離婚届の確認まで頼まれたのか?」

「条件について意見を聞きたいって言われて」

私は視線を上げた。

「旦那さんの浮気が五年も続いていたの。資産も隠して、愛人を妊娠させてた。最終的な合意内容じゃ、彼女には何も残らない」

司の睫毛が、わずかに揺れた。

「ねえ、司」

私は一歩、彼に近づいた。

「どうしたらそこまで残酷になれるの? 人の信頼も、家族も、青春も食いつぶして、逃げ場さえ奪うなんて」

彼はスラックスのポケットに両手を滑り込ませた。

「ビジネスでは珍しいことじゃない」

「じゃあ、心の問題でも?」

私は丁寧に封筒を折り、自分のポケットにしまった。

「あなたが私の友達だったら、彼女にどうアドバイスする?」

彼は長い間、私を見つめていた。

「僕なら、こう言うな」

彼はゆっくりと言葉を紡いだ。

「相手が一番大事にしているものを失わせろ、と」

「たとえば?」

「家だ」

司の声が低くなり、まるで誓いのように響く。

「もし僕が君を裏切るようなことがあれば、帰る場所を受け取る資格なんてない。この家を焼き払ってくれ、沙耶。それか、慈悲をかけてくれるなら――僕自身の手で火を放たせてくれ」

私は微笑んだ。

「自分に厳しいのね」

「君に対しては、厳しくなんてなれないよ」

彼は私の頬に触れようと手を伸ばしたが、私は顔を背けた。

その時、彼のポケットの中で携帯が震えた。彼は画面を一瞥すると、親指で着信音を消した。

「山田?」

「ああ。買収案件の詳細についてだ」

彼はネクタイを緩め、ソファの背もたれに無造作に掛けた。

「書斎でいくつかメールを返信しなきゃいけない。先にもう寝ててくれ」

「分かったわ」

彼が背を向けて立ち去ろうとしたとき、私はその名を呼んだ。

「司」

彼が振り返る。

「もし私に嘘をついたら」

私は静かに言った。

「あなたのその両目、奪ってしまうかもしれない。そうすれば、これからあなたが誰を見ても私を思い出すでしょう? でも、誰ひとりとして私じゃないの」

彼は凍りついたように立ち尽くした。やがて、冗談を理解しようとするかのように、口の端が引きつって笑みの形を作った。

「それなら、まずはナイフの使い方を覚えないとな」

彼は書斎に入り、すぐに深い青色のベルベットの箱を持って戻ってきた。

「遅くなったけど、誕生日の贈り物だと思ってくれ。この前の時計は気に入らなかったみたいだから、考えたんだ。元組長の娘には、もっと特別なものが似合うと思ってね」

彼が箱を開ける。黒いベルベットの裏地の上に、一本の短剣が鎮座していた。

鞘には黒木家の『茨』の紋章が象嵌されている。柄には私の名前が彫られており、『Z』の文字の最後の一画が鋭く獰猛な尾を引いて、まるで傷跡のように伸びていた。

「銃は兵士が使うものだ」

短剣を取り出しながら、彼は言った。刃が光を受けて冷ややかに輝く。

「だが、こういう短剣は支配者のためのものだ。至近距離で、終わらせる前に相手の目に浮かぶ恐怖を見届けるためのな」

彼は鋭い刃先を指先でなぞった。その口調は平坦だった。

「黒木家のナイフは、無実の血で汚れることはない。だが、報いを受けるべき人間は、一秒たりとも生かしておかない」

彼が私に短剣を差し出した。柄はひんやりとしていたが、何度も握りしめられていたかのような手の温もりが残っていた。

「試し切りはしたの?」と私は尋ねた。

「三ヶ月かけて研ぎ澄ませた」

彼はシャツの袖をまくり上げ、前腕の内側にある新しい微かな傷跡を見せた。

「刃が最初に吸う血は、持ち主のものであるべきだからね」

私は短剣を握り、指先で柄の彫刻をなぞった。

不意に彼が近づき、その吐息が私の耳をかすめた。

「気に入った?」

「ええ」

口づけが落ちてくる。彼の手が私の腰から背中へと滑り、背骨のくぼみに拳を押し当てた。襟元から微かに香水の匂いがした――理奈が愛用しているブランドだ。

体は記憶よりも正直だ。彼の舌が唇をこじ開けて入ってくると、喉から情けないほど甘い吐息が漏れた。七年間の筋肉の記憶が、頭の中で鳴り響く明確な警告を裏切っていく。

彼の手がシャツの下に滑り込み、掌が腰の皮膚に吸い付く。その瞬間、彼のポケットで再び携帯が震えた。

司は動きを止め、荒い息を吐きながら私の肩に額を押し付けた。

「……すまない」

彼は携帯を取り出して番号を確認すると、掃き出し窓の方へと向きを変えた。

「ベイビー?」

声を潜めて、彼が応答する。

再び、彼の唇からフランス語が流れた。私はその場に立ち尽くし、短剣を握る手にゆっくりと力を込めた。

『困らせないでくれ、今は行けない』

『いい子だ。明日の検診には一緒に行くから』

『ああ、分かった。今すぐ行くよ。僕も会いたい、ダーリン』

私は、その一言一句を理解していた。

司は電話を切り、振り返ったときにはすでに冷静な表情を取り繕っていた。

「クライアントに緊急事態だ。ホテルに行かないと」

「フランスのクライアント?」

「パリから来た客だ」

彼は歩み寄り、私の額にキスをした。

「寝ててくれ。待たなくていいから」

玄関のドアが開閉する音がした。車のエンジン音が夜の街へと遠ざかっていく。

私は短剣を置き、書斎へと歩いた。ノートパソコンを開く。画面は四つのライブ監視映像に分割されていた。

別荘の正門、ガレージ、私たちの寝室、そして――理奈のアパート。

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