第3章

監視カメラの映像の中で、司がドアをくぐり抜ける。すると裸足の理奈が駆け寄り、その胸に飛び込んだ。

彼は片腕で彼女を受け止め、もう片方の手で後頭部を抱え込むようにして口づけた――見覚えのあるキスだった。5年前、結婚した直後のことだ。土砂降りの雨の中、車内で彼はあんなふうに私にキスをした。二人とも貪り食わんばかりの激しさで。

理奈がつま先立ちになり、彼の耳を甘噛みする。彼は低く笑うと、そのまま彼女を抱き上げ、寝室へと運んでいった。映像が寝室の隅にある2台目のカメラに切り替わる――ベッドに倒れ込む瞬間、司の手が彼女の背中に回り、マットレスとの衝撃を和らげるように支えていた。

その仕草に、胃がぎゅっと締め付けられる。

5年前、私はスキーで腰を痛めたことがある。それ以来、愛し合うたびに彼はそうやって私の背中に手を差し入れてくれた。必要ないと言っても、彼は私の頬をつねって笑ったものだ。

「沙耶には絶対に痛みを感じさせない。何があってもね」

けれどその後、彼が私の背中を庇うことはなくなった。

画面の中の理奈は、彼のシャツのボタンを外している。司はされるがまま、その指先の動きに視線を落とし、まるで芸術作品でも鑑賞するかのような熱っぽい眼差しを注いでいた。

理奈がシャツを脱がせ、指先で彼の胸にある傷跡をなぞる。私を庇ってナイフを受けたときの傷だ。あの時、白いシャツを鮮血に染めながら、彼は傷口を押さえて私に言った。

「泣くな。お前の涙のほうが、刃物より痛い」

今、理奈の唇がその傷跡に押し付けられている。彼は目を閉じ、喉仏を上下させた。

私は停止ボタンを押した。

画面は、その降伏の瞬間のまま静止する。

そうか。この数年間、彼は優しさを捨てたわけではなかったのだ。ただ、向ける相手を変えただけだった。

午前3時近くになって、外でエンジンの音が響いた。

そう。私は夫が他の女と愛し合う一部始終を見届けたばかりなのだ。

ノートパソコンを閉じると同時に、書斎のドアが開いた。

司が入ってくる。シャツのボタンはきっちりと留められ、カフスボタンも元の位置に戻っている。濡れた髪だけが、彼がシャワーを浴びてきたことを――彼女の家で――裏付けていた。

「起きていたのか?」

情事の後の掠れた声だ。

「あなたを待っていたの」

私は短剣を持ち上げ、刃先を彼に向けた。

「あまりに豪華なプレゼントだもの。どう使うのが一番いいか、考えていたところよ」

彼は微笑み、歩み寄って私の前にしゃがみ込んだ。柄を握る私の手に、彼の手が重なる。

「教えてやろう」

「まずはここだ」

彼は私の手首を導き、切っ先を自分自身の喉元へと向けた。

「適切な場所を選ぶんだ。頸動脈。滑り込ませて、半回転させる。血は3メートルは吹き飛ぶだろうな」

刃先が皮膚に食い込み、小さく窪みを作る。

「次は目だ」

重ねた手を動かし、短剣を彼の視線の高さまで持ち上げる。

「眼窩は柔らかい。切っ先を斜めに入れてかき回せば、眼球をえぐり出せる。やってみたいか?」

私は彼の瞳を見つめた。

「司」

私は静かに言った。

「昔、言ったわよね。もし私があなたの目を奪ったら――」

「――誰を見てもお前の面影を見るだろうが、誰一人としてお前ではない」

彼は私の言葉を引き取り、口の端を上げた。

「だから、残しておいたほうがいい。何しろ」

彼は身を乗り出し、熱い吐息が私の唇にかかる。

「この目は7年間もお前を見つめ続けてきたが、それでもまだ足りないんだ」

嘘つき!!!

その同じ目が、ついさっきまで他の誰かの体を見ていたくせに。

私は手を引っ込めた。短剣が床に落ちて乾いた音を立てる。彼はそれを拾い上げ、鞘に収めると、机の中央にきっちりと置いた。

「寝よう」

彼は私を立たせ、その腕を腰に回した。

ベッドに入ると、彼は後ろから私を抱きしめた。

「沙耶」

不意に彼が言った。

「ん?」

「もしある日……」

長い沈黙。

「仮定の話だが。俺がお前に嘘をついていると知ったら……お前は俺を殺すか?」

私は彼に背を向けたまま、暗闇の中で目を開けていた。

「いいえ」

と私は答えた。

彼の腕に力がこもる。

「生かしておくわ」

私は続けた。

「毎日鏡でその目を見させるの。そして思い出させるわ。その目は本当なら、私にえぐり出されていたはずだったんだって。でもあなたが懇願したから、残してあげたんだって」

一瞬、彼の体がこわばったのがわかった。だが次の瞬間、彼は低く喉を鳴らして笑った。

彼は手を伸ばして私の体を反転させ、向き合わせた。闇の中で表情は読み取れないが、その声には愉悦が滲んでいた。

「じゃあ、今から命乞いを始めたほうがいいかな? まだ間に合うか?」

私は答えなかった。

彼は私の額にキスをし、ネグリジェの下に手を滑り込ませてきた。指先が下腹部に触れたとき、動きが止まる。ほんのわずかな膨らみ。ほとんど気づかない程度だが、彼の手はそこに留まった。

「最近、少し太ったな」

彼が言った。

「ええ」

私は目を閉じた。

彼はそれ以上動こうとはせず、ただ手のひらをその場所に平らに押し当て、何かを探るような仕草をした。長い沈黙の後、彼は静かに言った。

「沙耶、子供を作ろう」

喉が詰まる。

「どうして急に……」

「急か?」

彼は私をさらに引き寄せた。

「俺はもう三十三だ。スミス家には跡継ぎが必要だ。黒木家にもな」

彼の声色が優しくなる。

「それに……母親になったお前の姿が見てみたいんだ」

『母親になった私の姿が見たい』、か。

じゃあ、理奈の子宮にいるのは何なの? 予行演習?

私はその疑問を口にはしなかった。ただ彼の腕の中で身じろぎし、再び背を向けただけだ。彼もそれ以上は何も言わず、寝息が深くなるまで、私の下腹部に手を押し当て続けていた。

翌朝、司が出て行ってすぐ、玄関のチャイムが鳴った。

ドアの外に立っていたのは理奈だった。紙袋を手に、胸焼けするような甘ったるい笑みを浮かべている。

「沙耶、司が書類を忘れていったの。通りかかったから届けに来たわ」

私はドアを塞ぐように立った。「私が預かるわ」

彼女は小首を傾げ、視線を私の顔から腹部へと滑らせ、そこで二秒間留めた。

「中に入れてくれないの? だって」

彼女は声を潜める。

「私たち、もう家族同然でしょう?」

私は脇へ退き、彼女を通した。

彼女は我が物顔でリビングへ入ると、紙袋を無造作にソファへ放り投げ、私に向き直った。

「沙耶、話があるの」

「何の話?」

「あなたが身を引くことについてよ」

彼女は単刀直入だった。

「司は私を愛してる。私は彼の跡継ぎを宿しているの。あなたがその地位にしがみついているのは、見苦しいわよ」

私は酒棚へ歩き、自分用に水をグラスに注いだ。

「『黒木の妻』の座は、父の命で買ったものよ。それが欲しいの?」

私は振り返り、彼女を見据えた。

「なら、あなたの家族全員の血で支払いなさい」

彼女の顔がさっと青ざめたが、すぐに笑い声を上げた。

「知らないのね? 司はもう私の両親をフランスに移したわ。あなたは手出しできない」

手の中のグラスが揺れた。

そうか。彼はそこまで手を回していたのか。

理奈が一歩近づいてくる。

「正直なところ、何の意味があるの、沙耶? 愛してもくれない男にしがみついて……手切れ金をもらって出て行けばいいじゃない。離婚届にサインすれば、これだけ出すって司は言ってたわよ」

彼女は何本かの指を立てて見せた。

一般人が十回人生を送れるほどの金額だ。

だが、かつて裏社会を支配したスミス家の誇りを買うには足りない。

私はグラスを置いた。

「話は済んだ? 出口はあっちよ」

彼女は動かなかった。その視線が再び私の腹部に落ち、やがて、すべてを悟ったような笑みが顔に広がった。

「あなたも、妊娠してるんでしょ?」

私の背筋が凍りついた。

「今お腹にいるそれ」

彼女がさらに一歩踏み出す。

「本当に司の子なの?」

私は彼女を平手打ちした。

彼女は避けなかった。平手はまともに彼女の頬を捉えたが、次の瞬間、彼女は私の手首を掴み、もう片方の手を突き出して、私の腹を強く押し飛ばした――。

激痛が炸裂した。

私がうめき声を上げて床に崩れ落ちると、頭上から氷のような声が降ってきた。

「今のは私の赤ちゃんのためよ。あなたみたいな女が、黒木の子を産む資格なんてないわ」

痛みが体の芯から手足へと広がっていく。私は床の上で体を丸めた。背中は一瞬にして冷や汗でぐっしょりと濡れていた。

歯を食いしばり、震える手で携帯電話を探り当て、短縮ダイヤルを押す。

三回コールした後、司が出た。

「沙耶?」

背景が騒がしい。会議中だ。

「私……」

私は息を吸い込み、声を安定させようと努めた。

「気分が悪いの。病院に行かないと。あなたが……」

「今か?」

彼は私の言葉を遮った。

「買収会議の最中なんだ。抜けられない。運転手に送らせろ。終わり次第すぐ行く」

通話が切れた。

私は暗くなっていく画面を見つめたまま、携帯を握りしめた。腹部の激痛が増し、生温かいものが太ももの内側を伝って流れ落ちていく。

理奈がしゃがみ込み、脂汗で濡れた私の前髪を指で払った。

「ね、わかったでしょ」

彼女は囁いた。

「彼はあなたのことなんて、これっぽっちも気にしてないのよ」

彼女は急いで立ち去ろうとはしなかった。代わりに自分の携帯を取り出し、司の番号をダイヤルすると、わざとスピーカーフォンに切り替えた。会話のすべてを私に聞かせるために。

「司?」

彼女の声は一瞬にして弱々しく、パニックに陥ったものに変わった。

「私……赤ちゃんが変なの。さっき痛みがあって……少し出血もしてる。怖いよ……」

電話の向こうで、司の声色が完全に変わった。会議の雑音が消えたように思えた。

「何だって? 理奈、どこにいる? 赤ちゃんがどうした? 動くな。今すぐ行く! 会議は中止だ。今病院に向かっている!」

彼は必死の形相で電話を切ったようだ。青ざめた顔で会議室のドアを押し開け、全速力で駆けていく彼の姿が目に浮かぶようだった。

理奈は携帯をしまうと、唇を歪めて嘲笑った。彼女は顔を近づけ、低くあざけるような声で言った。

「聞こえた、沙耶? 私のため、私たちの子供のためなら、彼は全てを投げ出すの。あなたが懇願しても一秒も割かなかったのに。でも今は? 狂ったように飛んでくるわ」

彼女は立ち上がり、歩き去った。ヒールの音が玄関の向こうへ遠ざかっていく。

私は震えが止まらない声で、必死に運転手に電話をかけた。

「き、来て……病院へ……」

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