第3章
退屈を持て余しながら、私は上野家の世田谷にある別荘で、ただスマートフォンの画面でぴょんぴょんと跳ね回る小さなキャラクターを眺めていた。このステージをプレイするのは三度目。そして、私がここに軟禁されてから三日が経っていた。
佐藤燃は少し離れた場所に座り、さも本を読んでいるかのようなふりをしながら、その実、視線の端で私の一挙手一投足を監視している。ここ二日のように私に話しかけてこようとはしない。私が相手にする気がないと、さすがに悟ったのだろう。
私はわざと長く深いため息をつき、別のゲームを起動した。
【残り時間は六十九時間です、ホスト】
システムの音声が脳内に響く。
分かっている。私に残された時間は少ない。この時間内に元の世界へ帰れなければ、私は永遠にこの世界に取り残されることになる。
「お坊ちゃま、お帰りなさいませ」
玄関の方から、執事の恭しい声が聞こえてきた。
私の指が、わずかに止まる。上野一樹が帰ってきたのだ。
あの茶番のような婚約披露パーティー以来、彼に会うのはこれが初めてだった。
私は顔を上げず、スマートフォンのゲームに集中し続けた。だが、心の中ではどうやって彼を怒らせるか、すでに算段を立て始めていた。
足音がだんだんと近づいてくる。上野一樹の視線が、まるで目に見えない刃のように冷たく鋭く、私に突き刺さるのを感じた。
「何をしている?」
彼の声は低く、抑えられていた。
私は答えず、指を画面上で滑らせ続ける。
次の瞬間、上野一樹は私のスマートフォンをひったくり、床に叩きつけた。画面が砕ける音が、静まり返った和室にひときわ耳障りに響いた。
私はようやく顔を上げ、彼の端正でありながら歪んだ顔を見つめた。
その瞳には怒りの炎が燃え盛り、口元は硬い一本の線に引き結ばれている。
「一体、桜をどこへ隠したんだ?」
彼は猛然と身を屈め、片手で私の喉を掴んだ。その声は、抑えつけられた怒りに満ちていた。
呼吸が苦しくなる。だが、私の口元には無意識に笑みが浮かんでいた。
これこそが私の望んだこと。もし彼が怒りのあまりに私を殺してくれれば、私は元の世界へ帰れるのだ。
「やめろ!」
佐藤燃の怒声が、部屋の張り詰めた空気を打ち破った。彼は席から飛び上がり、上野一樹へと突進する。
佐藤燃は上野一樹めがけて拳を振るったが、上野一樹はとっくに備えており、身をひるがえしてそれをかわした。
佐藤燃は素早く立ち位置を直し、私を背後にかばう。
「今、あんたは彼女を殺しかけた! 気でも狂ったのか!」
佐藤燃の声は怒りで震えていた。
上野一樹は私たちを冷ややかに見つめる。その眼光から怒火は少しも衰えていない。
「こいつは俺の婚約者だ。俺とこいつのことに、お前は関係ない。こっちへ来い」
私は動かなかった。
佐藤燃は私の前に立ちはだかり、低く、しかし断固とした声で言った。
「これが普段のあんたの彼女への接し方なのか? 首を絞め、物を叩き壊すのが?」
上野一樹の眼差しが、さらに険悪なものになった。
「こいつが何をしたか知っているのか? 桜を誘拐したんだ! かつてお前が佐藤家に戻るのを助けてくれた、あの高田桜を!」
佐藤燃の体が、明らかにこわばった。高田桜が彼にとって何を意味するのか、私には分かっている。佐藤家に引き取られた後、彼に唯一、気遣いと支持を示してくれた人間。
少なくとも、表向きはそういうことになっている。
「証拠はあるのか?」
しばしの沈黙の後、佐藤燃は先ほどよりずっと落ち着いた声で尋ねた。
上野一樹は鼻で笑った。
「証拠? こいつが高校時代、桜に何をしてきたか忘れたのか? SNSでデマを流し、匿名掲示板に悪意のある写真をばらまき、体育の授業中に桜の服を盗んで、彼女をジャージ姿で帰らせたことまであったんだぞ!」
私は心の中で嘲笑した。それらの「悪行」は、すべて高田桜の自作自演だ。彼女が丹念に作り上げたイメージは、誰もが彼女を善良で無垢な被害者だと信じさせ、一方で私は悪役令嬢の代表格に仕立て上げられた。
だが、彼らが私をどう見ようと構わない。私はただ、家に帰りたいだけだ。
「俺は楓姉さんを信じる」
佐藤燃の言葉に、私は驚いて顔を上げた。
「彼女は無実だと信じてる」
自分の耳が信じられなかった。
かつての佐藤燃は、私が下校すると興奮した様子で宿題を見せに来たり、私が病気になると手際悪くお粥を作ってくれたり、私の誕生日には三ヶ月分の小遣いを貯めて小さなケーキを買ってくれたりした……。
だが、再会してからの彼は、尽きることのない倦怠を私に向けるだけだった。
しかし、もう遅い。
「知ってるか?」
佐藤燃の声が、私を現実に引き戻した。
「人間は、どんな絶望的な状況に追い込まれたら、死をもって自分の無実を証明しようとするか」
上野一樹の表情がわずかに変わった。その問いに心を動かされたかのようだ。
「楓姉さんがどうして飛び降りようとしたか、知ってるか?」
佐藤燃は低く重い声で続けた。
「誰も彼女を信じなかったからだ。彼女がどれだけ説明しても、誰もが皆、高田桜の言葉を信じることを選んだからだ。彼女は孤立させられ、誤解され、責め立てられ、絶望の淵まで追い詰められたんだ」
上野一樹の指が微かに震え、顔に苦痛の表情がよぎるのが見えた。だがすぐに、彼はまた冷淡な表情に戻った。
「行くぞ」
佐藤燃は不意に私の手を取り、戸口へ向かって歩き出した。
私はその手を振り払うと、冷笑した。
「いい人ぶらないで。今の私には、あなたのことなんて少しも信じられない」
佐藤燃はその場に立ち尽くし、その顔はまるで平手でひどく殴られたかのようだった。
だが、どうでもいい。この世界では、もう誰も信じない。
私は上野一樹に向き直り、どうすれば彼をさらに怒らせることができるか、心の中で算段を立てる。
もし彼が怒りに任せて私を殺してくれるのなら、それが一番早く家に帰れる道だ。
なにしろ、この世界において、死は私にとって唯一の解放なのだから。
