第106章 分別がつかない

夕食が終わると、人々はそれぞれ散っていった。

桜井結衣は、黒崎清恵一家が来たところで、さほど心を動かされなかった。冷たくされようが、愛想よくされようが、彼女にとってはどうでもいい。いま気にしているのは、橘敏恵のあの唐突な変わり身だけだ。

おかしい話には、必ず裏がある。

いつも見下すような態度で接してくる人間が、ある日いきなり腰を折って靴を拭いてくれる。そんな相手が狙っているのは、せいぜい「歩きやすくしてあげたい」程度の善意じゃない。

桜井結衣は二階の寝室へ戻り、ドアを押し開けた。

部屋には薄暗いフロアランプが一つ。柔らかな光が静けさをつくっている――はずだった。その静けさを、そこに...

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