第108章 火に油を注ぐ

男の熱い息が、湿った湯気と一緒に正面からぶつかってくる。拒む余地すら与えない侵略性。

桜井結衣の唇には、彼が言葉を吐いたときの微かな風がまだ残っていた。くすぐったくて、ひりつくほど熱い。

――それなのに。

キスされなかったことに、ほんの少しだけ落胆している自分がいる。

気づかれないように、この場から逃げる?

その選択肢が頭をよぎったのは、たった0.1秒。結衣はすぐに切り捨てた。

彼女は、出された問題を受け身で解くタイプじゃない。

ルールが自分に不利なら――盤ごとひっくり返す。

次の瞬間、桜井結衣は底の見えない瞳をまっすぐに受け止め、主導権を奪いにいった。

拘束する腕を押し返...

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