第137章 追い込み

一片の混乱の中で、ただ桜井結衣だけがその場に立ち尽くしていた。微動だにしない。

視線の先は、黒崎理人の痙攣する指先。

その瞳の奥で――誰にも気づかれない冷たい光が、ふっと走る。

……演技は悪くない。力加減が、少しだけ過剰だった。

結衣はタブレットを手に取り、ものすごい速度で記録を打ち込みながら、感情の温度を失った声で指示を飛ばした。

「外部からの物理刺激、全面停止。静脈ライン準備。『神安3号』を投与、用量は半分。南、手技はあなた」

「了解」

結城南が即座に前へ出て、慣れた手つきで輸液ポンプを調整する。

桜井結衣の冷静さは、周囲の慌ただしさとあまりにも対照的だった。

それから...

ログインして続きを読む