第149章 彼女は納得がいかない

彼女の指先が、彼の掌の上を、そっと一度なぞった。

その刹那――掌の筋肉が、ほんのわずかにきゅっと縮むのを、彼女は確かに感じ取る。

錯覚みたいに、速い。

けれど桜井結衣は知っていた。違う、と。

表情ひとつ変えずに一連のケアを終え、道具を片づけたところで、病室のドアがコンコンと叩かれた。

入ってきたのは黒崎祁だ。

今日は煙灰色のカジュアルスーツ。ネクタイなしで、襟元のボタンを二つ外している。ビジネスの刃のような鋭さが薄れ、どこか気怠い余裕が混じっていた。

手には、いかにも高そうな弁当箱みたいな食盒。

「昨日、大勝利だったって聞いた。『悦己』の菓子でお祝いしに来た」

会客スペース...

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