第156章 足りないものは、自分で取りに行け

午前4時。桜井結衣は物音ひとつ立てずに結城南のマンションを出て、病院へ戻った。

特別個室のドアを押し開けた瞬間、窓際にもたれた人影が目に飛び込んでくる。

黒崎理人が、灯りも点けずに立っていた。輪郭は闇に溶け、夜そのものと見分けがつかない。

いつもの派手で軽薄な装いはない。黒のシャツに黒のパンツ――それだけ。そこから滲むのは、普段とは正反対の刃のような鋭さと、冷えた威圧だった。

開く音に反応して、彼が振り返る。

桜井結衣は何も言わない。ただ彼の正面まで歩み、凪いだ目で見据えた。

咎めるでも、怒るでもない。感情を削ぎ落とした、純粋な観察。

沈黙が室内を圧し、息苦しいほど重くなる。

...

ログインして続きを読む