第158章 死ぬことも知らぬ愚か者

黒崎理人は、彼女のその理屈に喉を塞がれたように言葉を失った。

訝しげに二人を見比べる。どうにも腑に落ちない。

桜井結衣はもう相手にせず、綿棒を取って栄養液を少し含ませ、黒崎理人の乾いてひび割れた唇を丁寧に潤していく。

指先はひどく優しい。まるで稀代の宝物を修復しているかのような集中だった。

そのとき、モニターの心拍数が、前触れもなく65から75へ跳ね上がり――次の2秒で、すっと元へ戻った。

黒崎理人の視線が吸い寄せられ、「え?」と間の抜けた声が漏れる。

「何だ今の。死体が動いた?」

「不整脈の偶発的な所見よ」桜井結衣は顔色ひとつ変えず手を引き、使い終わった綿棒をゴミ箱へ放った。...

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