第21章 君が欲しい

彼は自分と『黒崎理人』を、はっきりと切り離してみせた。――ひとりは無力で、ひとりは何でもできる。

相手が別の女なら、きっと涙を流して感激しただろう。

けれど桜井結衣は、ただ静かに彼を見つめるだけだった。瞳に揺らぎは一欠片もない。

「誰の助けもいらない」

結衣は昔から、恩と怨みをきっちり分ける。

「でも、今日は確かに助けられた。この借りは覚えておく」

背筋を伸ばし、彼との距離を少しだけ取る。事務的な声音で問いかけた。

「それで? 見返りは何がいいの」

黒崎理人の視線が彼女に落ちた。深い眼差しの奥で、結衣には読み切れない複雑な感情が渦を巻く。

車内の空気が、ふっと凍りついた。

...

ログインして続きを読む