第34章 彼では駄目だ

彼女は近づくなり、やけに親しげに桜井結衣の腕へ絡みついた。所作だけは完璧で、まるで世界一仲のいい姉妹みたいに見せつける。

「お姉ちゃん、本当に来たんだ? 黒崎家みたいな名門にお嫁に入ったら、てっきりおうちで若奥様してると思ってたのに」

桜井結衣は表情を崩さないまま、するりと腕を引き抜いた。眉間が、ほんのわずかに寄る。

桜井美桜は気にした様子もなく、蜜みたいに甘い声を続ける。大きすぎず小さすぎず、周囲の耳にちょうど届く音量で。

「ここまで入るの、きっと大変だったでしょ? 研究所って門が高いもんね。私なんてただのちっちゃい実習生で、毎日お茶入れたり雑用したりするだけなのに」

控えめに研...

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