第36章 とうにお前たち桜井家の人間じゃない

桜井結衣はスマホを握ったまま、受話器の向こうから飛んでくる桜井智也の「当然」という顔をした命令を聞き流し、唇の端を冷たく吊り上げた。

「おとなしくしてろ、ですか」

反芻する声音は、まるで年イチの大賞級ジョークでも聞かされたみたいに軽い。くすり、と笑う。

「桜井社長。忘れてません? たしかに私は桜井姓だけど、とっくに桜井家の人間じゃない。私のことをあなたが段取りする筋合いはないわ」

言い切ると同時に、桜井智也が怒鳴り返す余地すら与えず、指先で画面を一度――トン。

ぷつり、と通話が切れた。

耳に残るのは、ツーツーツー……という無機質な忙音だけ。

桜井智也は、その場で固まった。

ス...

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