第81章 彼女の価値

「でたらめ言わないで!」

橘敏恵の声が一気に跳ね上がった。耳を刺すほどに甲高い。

「私が、どんな反応をしたっていうの? 息子が重病なのよ、悲しむのは当たり前でしょう! あなたみたいな部外者が、何を偉そうに口を挟むの!」

胸が大きく上下し、眼には濃い怨嗟がまとわりついている。今にも形を持ちそうな、どす黒い悪意。

「……もういい」

それまで黙っていた黒崎明信が口を開いた。声は大きくない。だが湿った圧が、場の空気を押し沈める。

彼は手を伸ばし、橘敏恵の肩を押して椅子へ戻した。慰めるような仕草なのに、力加減は拒めない。

「弟妹も、心配のあまり取り乱しただけだ。皆さん、誤解しないでくれ」...

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