第92章 彼を死なせたくないなら出ていけ

「ある」桜井結衣は、たったひと言だけ返した。だが、その一語が床を打つ石のように重かった。

彼女はすっと視線を戻し、淡々と指示を飛ばす。

「最新の血液サンプルと、毒性学の解析レポートを」

「私の鍼箱を用意して」

「ラボを空けて。執事以外、誰も近づけないで」

有無を言わせない声だった。医師たちは反射的に頷き、指示どおりに動き出す。

桜井結衣が落ち着き払って場を掌握していくのを見て、橘敏恵の胸の底に、ぞくりとした不安が湧いた。

本来の筋書きはこうだ。黒崎理人を「危篤」に見せかけ、原因を桜井結衣の薬に擦りつける。自分が「神医」を呼び寄せて手柄を立て、目障りな桜井結衣を黒崎家から追い出す...

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