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藤井翼は、いつの間にか一歩、前へ出ていた。

新谷結奈の薄い唇は、瑞々しい桃みたいに淡く色づいている。彼はそこから目が離せず、ぼうっと見入ってしまう。

結奈も、空気が甘く濁っていくのを察していたのだろう。気まずそうに視線を逸らした。

床へ落とした目線の先で、彼女ははっとする。

藤井翼のスーツのズボンが、膝下までぐっしょり濡れていた。革靴にも水滴がびっしりと残っている。

「翼さん、服……濡れてる」

その瞬間、結奈はようやく気づいた。さっき翼は水の中に足を踏み入れたからこそ、自分を抱き上げられたのだ。

ここ数日は寒くない。けれど人工池の水は冷たい。肌に触れた途端、骨の奥まで冷えが染み...

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