第1章

桃花はスマートフォンを握りしめていた。力を込めすぎた指先は白くなっている。画面には、たった今編集を終えたばかりの助けを求める投稿が表示されていた。念入りに撮影した可哀そうな自撮り写真――目尻には絞り出したばかりの涙の粒が残っている――に、こんな文章が添えられている。

『急いで学費が必要です。お金のためなら何でもします……どうか皆さん、助けてください……』

彼女は送信ボタンを押し、口の端に冷たい弧を描いた。

――釣りが始まった

渋谷区にあるこの流行りのカフェは人でごった返している。午後の陽光が大きな窓から差し込み、彼女の顔に降り注ぎ、その精緻な顔立ちに無垢な光の輪をまとわせていた。

桃花が選んだ隅の席は視野がよく、客全員を観察できるうえに、目立ちすぎることもない。

ほどなくして、スマートフォンが振動を始めた。

「いいね」の数は急速に伸び、コメント欄も賑わいを見せている。

桃花は一つ一つ目を通し、ターゲットを探す――過剰に親しげな言葉をかけてくる男性のアカウント、金持ちそうなプロフィール写真なのに自ら言い寄ってくる見知らぬ人々。

『悪い人には気をつけてね~』というコメントに、彼女はスクロールする指を止めた。

コメントの主のアカウント名は「遠山慎」。アイコンは知的で優雅な雰囲気の若い男性で、職業は「投資コンサルタント」と記されている。

桃花が彼のプロフィールページを開くと、そこには高級レストラン、有名ブランドの腕時計、高級車の内装といった、贅沢な暮らしをひけらかす写真ばかりが並んでいた。

――あなたに決めた

彼女が返信しようとした、まさにその時。穏やかな声が背後から響いた。

「すみません、もしかして先ほど投稿で助けを求めていた学生さんですか?」

桃花が振り返ると、そこにいたのは写真と同じ顔だった。

遠山慎本人は写真よりも魅力的で、仕立ての良いダークグレーのコートを身にまとい、その穏やかな笑顔は春風に吹かれているかのような心地よさを感じさせる。

「あ、あなた……どうして……」

桃花はわざと慌てふためいた様子を見せ、無意識にスマートフォンを隠した。

「すみません、すみません。怪しい者じゃないんです」

遠山慎は両手を挙げ、さらに穏やかに笑った。

「さっきあなたの後ろでコーヒーを買うために並んでいて、偶然あなたの投稿を見てしまったんです。本当に困っているようだったので、もしかしたら力になれるかもしれないと思って」

桃花はうつむき、前髪で目に一瞬よぎった冷たい光を隠した。

「私……本当に、お金に困っていて。もうすぐ学費を払わないといけないのに……」

声は嗚咽に変わり、小刻みに震える肩と相まって、追い詰められた貧乏な女子大生を完璧に演じきっていた。

遠山慎の目に気づかれにくい得意げな色がちらついたが、表面上は心配そうな表情を保っている。「少しお話しできませんか? もしかしたら、本当にあなたを助けられるかもしれません」

「本当ですか?」

桃花は顔を上げ、目に涙をいっぱいに溜めてみせる。

「でも……あまり人に借りを作りたくなくて……」

「心配いりません。僕が言う『助け』は、単なる施しではありませんよ」

遠山慎は彼女の向かいに腰を下ろし、声を潜めた。

「とても簡単な、お金を稼ぐチャンスがあるんですが、興味ありませんか?」

桃花は心の中で冷笑したが、顔は依然として戸惑ったままだ。

「どんなチャンス、ですか?」

「僕には何人か友人がいまして……彼らは、何と言いますか、ちょっと特別な娯楽を好むんです」

遠山慎の声はますます小さくなり、どこか艶めかしい暗示を帯びていた。

「例えば、大食いチャレンジとか。面白そうだと思いませんか?」

「大食い?」

「ええ、そうです。限界まで食べることに挑戦するゲームですよ」

遠山慎は鞄から美しい名刺を一枚取り出した。

「僕たちは『金魚釣り倶楽部』という小さなサークルをやっていまして、会員は皆とても裕福な方々です。彼らは、少し……刺激的なショーを見るのがお好きでしてね」

桃花は名刺を受け取った。そこには優雅な金魚の絵柄と一つの住所が印刷されている。彼女の指が名刺の縁をそっと撫でると、胸のどこかから奇妙なざわめきが込み上げてきた。まるで、体内で何かが目覚めようとしているかのように。

「ショー、ですか?」

彼女はわざと怯えたふりをした。

「とても簡単です。十人前の豪華な料理を、もしあなたが全部食べきることができたら、680万円を獲得できます」

遠山慎は微笑んでいたが、その目には言いようのない悪意が宿っていた。

「もちろん、もし失敗したら、あなたは……他の方法で埋め合わせをしてもらうことになります」

680万円。

桃花の瞳孔がわずかに収縮した。

その数字は、どんな絶望した人間をも危険な賭けに走らせるのに十分な誘惑だ。彼女はわざと長く沈黙してから、震える声で尋ねた。

「他の、方法?」

「心配しないでください。そんなにひどいことにはなりませんよ」

遠山慎の声はさらに優しくなったが、その優しさは肌を粟立たせるような不気味さがあった。

「ほんの少しの……奉仕作業です。信じてください、680万円の報酬に比べれば、この程度のリスクは何でもありません」

桃花は下唇を噛み、葛藤する表情を作る。

「私……私に本当にできるでしょうか? 十人前なんて……」

「あなたは、とてもよく食べそうに見えますよ」

遠山慎は笑みを深めた。

「それに、何を怖がることがあるんです? 試してみるだけなら、損はないでしょう?」

体内のざわめきはますます強くなり、まるで無数の蟻が血管の中を這い回っているかのようだ。

桃花は、これまでにない飢餓感が理性を喰らい尽くしていくのを感じていた。

「わ……わかりました」

彼女はついに頷いた。

「やってみます」

遠山慎の目に浮かんだ得意の色は、もう隠しきれていなかった。

「よかった! 今夜八時、銀座の『懐石雅庭』で。もう個室を予約してあります」

その夜、銀座の高級料亭『懐石雅庭』。

個室の照明は薄暗く、艶めかしい雰囲気を醸し出している。桃花が畳の上に座ると、目の前の低いテーブルにはすでに美しい日本料理が並べられていた――刺身、寿司、天ぷら、焼き魚……ゆうに十人前の量が山のように積まれている。

遠山慎は彼女の向かいに座り、手にした契約書を見せながら言った。

「ルールは簡単です。一時間以内にすべての料理を食べ終えればあなたの勝ち。680万円は即座にあなたの口座に振り込まれます」

桃花は契約書にびっしりと書かれた条項を見つめる。ここには間違いなく罠があると分かっていたが、彼女はわざとお金のことしか気にしていないふりをした。

「もし、負けたら?」

「その場合は、我々のために一年間働いてもらいます。具体的な仕事内容は状況に応じて決めさせてもらいますよ」

遠山慎の笑みには、一筋の残酷さが混じっていた。

「もちろん、食事と住居はこちらで用意しますから、損はさせません」

一年間の奴隷契約。それが『金魚釣り倶楽部』の正体だ。

桃花が契約書に自分の名前を署名した瞬間、彼女は体内の何らかの力が完全に覚醒したのを感じた。

強烈な飢餓感が全身を駆け巡る。それは普通の空腹ではなく、魂の奥底から湧き上がる渇望だった。

喰らわなければならない。満たさなければならない。もっと……もっと……。

もっと、言葉に尽くせぬものを。

「始めていいですよ」

遠山慎はストップウォッチのボタンを押し、面白い見世物を待つ悪意に満ちた目で彼女を見た。

桃花は箸を取り、食べ始めた。

最初の一切れの刺身が口に入った瞬間、彼女の目に幽かな緑色の光が閃いた。

彼女が咀嚼する速度は常人を遥かに超え、ほとんど間を置くことなく次々と魚の切り身を口に運んでいく。

遠山慎の表情が得意げなものから驚愕へと変わった。

寿司、天ぷら、焼き魚……どの料理も驚異的な速さで桃花の口の中へと消えていく。

彼女の咀嚼音が静かな個室にことさら大きく響き渡り、時折漏れる満足気なため息と相まって、不気味な雰囲気を醸し出していた。

「そ……そんな、馬鹿な……」

遠山慎は目を丸くし、目の前の華奢に見える少女が人間には不可能な速度で食物を貪る様を見つめていた。

桃花は顔を上げた。口の端にはまだ醬油が残っているが、その目に宿る幽かな緑色の光は一層鮮明になっている。彼女は唇の角を舐め、その声は奇妙な反響を帯びていた。

「まだ足りない……全然、足りない……」

四十分後、十人前の料理はすでに大半が姿を消していた。

桃花の食欲は衰える気配が一切なく、むしろますます興奮しているようだ。

彼女は向かいで驚愕に打ち震える遠山慎に視線を向け、無邪気な微笑みを浮かべた。

「ありがとう……私を、正しい場所に導いてくれて」

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