第6章 私は何でもできる

病院。

朝霧和音はベッドに横たわっていた。白いシーツが彼女の血の気のない顔色を一層青ざめて見せている。

先ほどの個室で、桐生瑛はすでに彼女の痩せ細った様子には気づいていた。

しかし今、はっきりとその顔を目の当たりにして、桐生瑛の心臓は何かに強く握り潰されたかのような衝撃を受けた。

目の前のこの骨と皮ばかりに痩せこけた女を、三年前のあの華やかで人を惹きつけてやまなかった朝霧家の令嬢と結びつけて考える者など、誰もいないだろう。

収監されてわずか三年。彼女は自らをこのような姿に変えてしまったのだ。

桐生瑛は眉を顰め、先ほどのバーでの出来事を思い返す。

かつて彼女が最も誇りとしていた尊厳さえも、とうにかなぐり捨てていた。

桐生瑛は思わず歩み寄り、彼女の顔に手を伸ばす。これが本当に朝霧和音なのか、それとも誰かが人皮の面を被り、彼女になりすましているのかを確かめたかった。

そうでなければ、一人の人間がこれほどまでに変わり果てることなどありえようか。

「桐生家の若君」

誰かが外からドアを開けて入ってきた。

桐生瑛の手は空中で一瞬止まり、何事もなかったかのように引っこめられた。「何事だ?」

「桜庭様がお戻りはいつかと。桜庭さんのご様子が優れないとのことです」

アシスタントの高峯遼が、恭しく入口に立っていた。

ベッドの上の人物を見て、高峯遼の瞳に一瞬驚愕の色がよぎったが、すぐに視線を逸らす。

この三年間、桜庭依々の鬱病は頻繁に再発し、そのたびに死にたい、消えたいと騒ぎ立てていた。

彼女の感情を鎮めることができるのは、桐生瑛だけだった。

詳しい理由は知らないが、桜庭依々が発作を起こすたびに、桐生瑛が何をしていようと、第一时间に駆けつけることだけは知っていた。

今回も例外ではない。

「わかった。車を回せ」

桐生瑛は朝霧和音から視線を外し、入口に向かって歩き出した。

「それと、人を付けて見張っておけ。俺が来たことは知らせるな」

高峯遼は恭しく承諾した。

朝霧和音が目を覚ましたのは、すでに夜が明ける頃だった。

頭上の真っ白な天井を見て、朝霧和音はしばし呆然とした。

「目が覚めた? お医者様が言うには、お酒の飲み過ぎと、体の衰弱で倒れたんですって」

そばから、聞き覚えのあるような、ないような声がした。

朝霧和音はそちらに首を向けると、先ほど個室で自分を助けてくれた藤村静香だとわかった。

「あなたが病院に運んでくれたの? ありがとう」

彼女は苦労してベッドから起き上がろうとする。

藤村静香はさっと駆け寄り、彼女の体を押しとどめた。

「礼を言う必要はないわ。どうせ……」

どうせ運んだのは自分ではないし、自分はただ上の命令でここに来ただけなのだから。

上の吩咐を思い出し、藤村静香はそれ以上言うのをやめた。

「横になってなさい。お医者様が安静にって」

朝霧和音は五臓六腑が激しく痛むのを感じ、何度か深呼吸をしてから首を横に振った。

「いいえ、大丈夫。もう退院する」

藤村静香は眉を顰める。「あなた……」

「今、あまりお金がないの。医療費は稼いだら返すから。さっきは助けてくれてありがとう」

朝霧和音は歯を食いしばり、手の甲に刺さっていた針を抜き去った。足が床に着いた途端、体がぐらりとよろめく。

その姿は、誰の目にも虚弱そのものだった。

藤村静香はため息をついた。

同じ底辺で必死に生きている人間だ。朝霧和音の窘迫を、彼女が知らないはずがない。

本当にどうしようもなくなっていなければ、誰が個室であんな屈辱を受けるだろうか?

それに……。

彼女は複雑な気持ちで朝霧和音をベッドに押し戻した。

「わかったから。ゆっくり休んで。お金のことは心配しなくていい」

朝霧和音はベッドに座っていた。痩せこけた頬の上で、一対の澄んだ瞳がことさらに大きく見え、痛々しいほどの愛らしさを感じさせる。

藤村静香は微笑もうとしたが、笑えなかった。

「おめでとう。あなたは囲われることになったわ。これからはもうお金に困ることはない」

朝霧和音はその知らせをうまく消化できないでいた。「何?」

「今月から、あなたは何もする必要はない。ただ家でおとなしくしていればいいの」藤村静香は言った。

朝霧和音の眼差しが揺らぐ。認めたくはなかったが、その言葉を聞いた時、心に一筋の安堵がよぎったことを。

囲われる。そんな言葉が自分に向けられる日が来るとは、夢にも思わなかった。

以前の自分がこの言葉を聞いたら、どんな反応をしただろうか。今となっては想像もつかない。

ただわかるのは、今の自分は、むしろほっとしているということだ。

誰かに囲われれば、もうこんなに辛い思いをしなくてもいいのではないか? それに……桐生瑛に会わなくても済むかもしれない。

体を売ることになったとして、それがどうしたというのだ? ただ穏やかに生きていけるのなら。

「静香さん、それで……私はいくらもらえるの? 今すぐお金が必要なの」

彼女は廉恥を捨て、心は金銭のことだけでいっぱいだった。

十分なお金を貯めて、家族を見つけたら、ここから遠く離れてしまおう。

次の瞬间、藤村静香の言葉が再び彼女を地獄へと突き落とした。

「私たちみたいな人間の手に、お金が入ってくると思う? 大半は上が持っていくのよ。ボスが衣食住を保証してくれるだけでもありがたいこと。満足しなきゃ」

「少なくとも、これからは客を取らなくてもいいし、誰かに虐められることもなくなるわ」

朝霧和音の膝の上の指が、ぐっと強く握り締められた。

「一銭ももらえないの?」

藤村静香は首を振る。「お金を渡したら、あなたが逃げるでしょ。ボスはどこで儲ければいいの? 考えるだけ無駄よ」

朝霧和音の心に芽生えたばかりの希望は、一瞬にして消し去られた。

「ゆっくり休んで。明日は社員寮に連れて行ってあげるから」

藤村静香はそれ以上話すことなく、隣に座ってスマホをいじり始めた。

朝霧和音はベッドに横たわり、虚ろな目で天井を見つめ、頭の中は混乱を極めていた。

「静香さん、本当にお金が必要なの。お願い、私、何でもするから」

スマホをスワイプしていた藤村静香の指がぴたりと止まり、数秒間黙り込んだ。

「確かに、手っ取り早く稼ぐ方法はあるけど……あなたがそれを受け入れられるかどうか」

朝霧和音の瞳に、毅然とした光が宿った。「できる。お金を稼げるなら」

藤村静香は彼女を一瞥し、スマホを手に取って電話をかけた。

お金の心配はなくなったとわかっていても、朝霧和音は病院に長居する気にはなれなかった。

翌朝早く、彼女は退院した。

藤村静香は二人が住む社員寮を案内し、それから彼女をバーへと連れて行った。

「こいつがお前の言ってた代理か? こんなひょろっこい体で、本当に踊れんのか?」

いかにも筋者といった風体のスキンヘッドの男が、顎を撫でながら朝霧和音を値踏みするように見下ろした。

バーにはもともと一人のストリッパーがいたが、ここ数日体調を崩して休んでおり、そのせいで客足も遠のいていた。オーナーは代役を方々で探していたのだ。

藤村静香は笑いながら朝霧和音の肩を抱いた。

「辰さん、踊れるかどうかなんて重要? この商売、覚悟が決まってるかどうかでしょ?」

「和音ちゃん、ほら、辰さんに覚悟を見せてあげて。やれるって」

朝霧和音はためらうことなく頷いた。

「できます。必ず、しっかり踊ります」

男は依然として疑いの眼差しを向けている。

朝霧和音は説明が無駄だと悟り、遠くのステージに目をやると、くるりと身を翻してそちらへ歩き出した。

収監される前、彼女はA市筆頭の令嬢だった。それは家柄だけが理由ではなく、彼女自身が抜きん出ていたからだ。

琴棋書画に舞踊、音楽。彼女が修めていないものはなかった。

唯一の懸念は、刑務所で負った傷が、彼女の状態にどう影響するかということだけ。

朝霧和音はステージの端に立ち、深呼吸をして覚悟を決めると、靴を脱ぎ捨て、素足でステージに上がった。

一瞬にして、そこにいた全員の視線が彼女に引きつけられた。

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