第9章 人を殺さないように

男に手首を掴まれ、朝霧和音は身動きが取れなかった。いや、もがく勇気もなかった。

この角度では、俯けば俯くほど、桐生瑛と視線が合ってしまう。

彼女にできるのは、平静を装って顔を上げ、視線を脇へ逸らすことだけだった。ちょうど、液晶スクリーンに映る自分の無様な姿が目に入る。

彼女の前には、桐生瑛の優雅で落ち着いた姿があった。

彼は低い位置にいるというのに、まるで身を潜める獣のようで、強大な圧迫感を放っている。

その対比が、彼女をより一層惨めに見せた。

スクリーンに映る自分の姿に心を刺され、朝霧和音は微かに鼻をすすり、できるだけ平静を装って口を開いた。

「おいくらですか?」

ここまで来...

ログインして続きを読む