第51章 伊藤絵里はただの外部の人

「そんなに私が後悔するのが怖いの?」

彼は籠もった声で言った。「でも、俺はお前が俺を見知らぬ人のように扱うのがもっと怖いんだ」

周りは冷たかったが、彼の抱擁は昔と同じ温かさだった。暖かい。

彼の言葉に、私はハッとした。

我に返った時には、彼はすでに私のために車のドアを開け、私が乗り込むと、振り返りもせずに立ち去っていった。

雨のカーテン越しに、彼の凛とした背中が半分以上濡れているのが見えた。

胸の奥が何千何万もの蟻に食い尽くされるように、どんどん空っぽになっていく。

結婚生活を終わらせるのは、こんなにも簡単なことだったのだ。

30分ほど時間を取って、区役所に行き、書類を提出し...

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