第53章 彼に関する私の痕跡を消す

息が詰まる思いだった。

瞬時に、言葉にできないような苦しさが全身を覆い尽くした。

この指輪は、私たちの結婚指輪だ。

結婚した時、彼は気にかけなかったけれど、おじいさんは孫の嫁である私に最高のものを全て与えてくれた。

何百万もの結納金、高価な新居、そして一流の宝石デザイナーに特注した結婚指輪。

その後、結納金はおばさんに育ての恩に報いるために渡した。

新居にも私の居場所はなくなった。

日々私と共にあるのは、この指輪だけになった。

結婚したばかりの頃、私は嬉しさいっぱいでそれを薬指にはめていた。藤原和也は私も藤原家で働いていると知ると、すぐに控えめにするよう注意してきた。

その...

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