第207章

世の中には、「面倒」という実体など存在しないのかもしれない。

——だとしたら。その「面倒」という概念はすべて、彼が運んでくるものなのだろうか。

あの傲慢で傍若無人な叔母の姿が、脳裏をよぎる。

榎田神也は手を伸ばし、彼女を抱き寄せてあやそうとした。だが、その凍てつくような瞳と視線がぶつかり、手は虚空で止まった。

彼の一瞬見せた寂しげな表情に、篠崎アエミの胸も痛む。

しかし……。

彼女は顔を上げ、毅然とした眼差しを向けた。

「お互い、距離を置いたほうがいいと思います。さようなら」

榎田神也はその場に立ち尽くし、決別を告げた背中を見つめる。口の中には苦いものが広がっていた。

車に...

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