第250章

「っ……!」

 くぐもった息が、そのまま甘い声に変わった。

 篠崎アエミはようやく我に返り、顔から火が出そうになって、あわてて手を離した。きょろきょろと周りを見回し、誰にも見られていないと確認してから、ほうっと大きく息を吐く。

 カップル向け温泉スパ。その名のとおり、ここを訪れるのは基本的に二人連れだけだ。

 さっき、視界の端にうつったとき。

 あのカップルは、ちょうど――

 湯気がもうもうと立ちこめ、視界は少し霞んでいる。

 けれど、絡み合う肢体だけは、いやでも目に入る。とくに、水面がちゃぷんと揺れる音が、生々しくて、余計に恥ずかしい。

「試してみない?」

 男の掠れた声...

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