第274章

個室の空気が、みるみる冷えていった。

榎田神也は腕を組んだまま脇に腰を下ろし、食べ物に手をつける気配すらない。全身から滲むのは、触れれば凍りつきそうな冷気だけ。

脳裏で何度も反芻されるのは、篠崎アエミの冷え切った表情だった。

自分たちが、前後して店に入ったのを――あいつは見ていたはずだ。

なのに。

顔色ひとつ変えない。波紋ひとつ立たない。まるで、知らない他人でも眺めているみたいに。

掌のグラスを握る指に力がこもり、関節が白く浮く。

入江宝夢が眉をひそめ、言い返そうとしたその瞬間、天野千尋が小さく首を振った。

――まずは、人心を掴む。

入江宝夢は心の中で何度か言い聞かせ、よう...

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