第276章

薄明の朝。

一睡もしていない篠崎アエミは、疲れの滲んだ顔で地下駐車場へ降りた。

車のドアを開け、乗り込もうとした、その瞬間。

ふいに腰がきゅっと締めつけられ、身体ごとふわりと宙に浮く。

「放して」

鼻先に、覚えのある匂いがまとわりつく。

顔を上げると、そこには端正な横顔。濃い眉、通った鼻筋、きゅっと結ばれた薄い唇。断食でもしているみたいに鋭い顎のライン。

完璧な横顔――なのに、表情は最悪だった。

熱い息がかかる。濃い酒の匂いがどっと押し寄せた。

篠崎アエミは目を見開く。

「お酒、飲んだの? 酔っぱらいと話す気ないんだけど。先にどいて」

酔った榎田神也が鼻で笑い、篠崎アエ...

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