第280章

榎田神也のキスは、上手すぎた。

ほんのわずかな時間で、篠崎アエミはあっさり白旗を上げる。全身がびくりと震え、腰を支える大きな手がなければ、そのまま床へ崩れ落ちていたかもしれない。

しばらくして。

ふたりは息を乱し、目尻には涙まで滲んでいた。

ようやく榎田神也が唇を離す。見下ろしてくる視線は熱を孕み、奥の深い瞳に欲情が濃く沈んでいる。

篠崎アエミは羞恥と憤りを押し隠しもせず、顔を上げた。

「……もう、帰って」

「まだ俺を追い出すのか」

その一言で、胸の奥に火がつく。榎田神也の心臓も、何かにぶつけられたみたいに痛んだ。

彼は指を引っかけるようにしてアエミの顎を取ると、もう一度―...

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