第53章

『二十年後、藤原家の長男が葉田家の長女を妻に迎える。御守りと婚約書がその証、藤原平川』

見慣れた字体、それは祖父の筆跡だった。

婚約書には名前は記されておらず、ただ「葉田家長女」とだけあった。祖父は他界する数年前に重度のアルツハイマー病を患っており、葉田家が縁を求めて訪れた時にはもう人を認識できなくなっていた。そして藤原家は当然のように葉田雲子を葉田家の唯一の娘だと思い込んでいた。

葉田家はT市の名家の中でも数えられるほどの家柄ではあったが、藤原家のような歴史ある「名門」家系と、葉田家のような資本を急速に積み上げた成り上がり一家との間には自然な壁があり、だから藤原家の年長者たちも藤原お...

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