第7章 どの葉田さん
「放して、気分じゃないの」葉田知世はソファに押し付けられてシャツのボタンを引きちぎられるまで、藤原羽里の意図が分からなかった。
この変態。自分が今どんな姿をしているか、鏡を見なくても分かるのに、よくもそんな気になれるものだ。
葉田知世は心の中で毒づきながら、激しく抵抗し始めた。
「何度も何度も俺の前に現れて、今日はこんな芝居までして。今の俺のやり方こそ、お前が望んでたことじゃないのか」藤原羽里は冷笑し、彼女の両手を背中に捻じ上げながら、のしかかった。
なるほど、誤解していたのだ。
彼女が自分で「ヒーロー救出劇」を演出して、彼に近づこうとしたと思っているのだ。
葉田知世は弁解する気もなく、またいつもの看板笑顔を浮かべた。
「そうよ、自分をもっと可哀そうに見せなきゃ、どうやって藤原様の保護欲を刺激できるかしら」彼女は色っぽく笑いながら、藤原羽里の唇の端にキスをした。
「お前に対して俺が持っているのは保護じゃない、『欲』だけだ」藤原羽里は歯ぎしりした。
くそっ、そんな目で見るな!藤原羽里は腫れて充血したその瞳の中に、まさか...悲しみ?を見てしまった。
彼は不思議と動揺し、黙ったままスーツのジャケットを脱ぎ、彼女の顔にかけた。あの瞳を隠すように。
携帯が何度も鳴った。友人たちが待ちくたびれたのだろう。しかし藤原羽里は今、最高に気持ちがのっていて、そんなことに構っていられなかった。
......
顔を腫らした葉田知世は数日間の休暇をもらって家で休んでいた。
平原遥子は出張中で、クラブで起きたことを知らなかった。意外だったのは、小崎様がもう嫌がらせをしてこなかったことだ。彼の家業に問題が発生し、小崎様は留置所に入れられたという。
最初は、これが藤原羽里と関係があるのかと考えたが、すぐに自分の思い上がりを笑い飛ばした。
藤原羽里は彼女を下賤だと思い、自分から差し出された安物だと思っている。
彼女のために立ち上がるなんて、あり得るはずがない。
「因果応報ってやつね」葉田知世は小崎家のニュースを葉田雲子に送った。
「あなたと鈴木燕がやりたい放題やって、いつかはこうなるわよ」
葉田雲子から電話がかかってきた。いきなり罵倒してきた。「この売女!今回は運が良かっただけ。次はそう簡単にはいかないわよ。分別があるなら早くT市から出て行きなさい。さもないと、どう死ぬか分からないわよ」
「葉田雲子、私は死なない。私がどうやって生き延びるか、あなたに見せてあげる」葉田知世は自分の手首を撫でながら、冷ややかに言った。
彼女はすでに一度死んだ身。もう二度と自分を絶望に追い込ませない。
「むしろあなたと鈴木燕こそ、地獄の底に落ちるべき!葉田淮も、永遠に安らかには眠れないわ!」
......
藤原グループ、16階。
「さあ、どう感謝する?」
藤原羽里の親友である平原青は足を組んでソファに座り、携帯に映る小崎家のニュースを見せながら手柄を誇った。
「小崎岳はあいつ自身の行いが招いたことだ。二年は出てこれないだろうな。でもさ、気になるんだよ。羽里様、酒売りの女のために動くなんて、何か理由でもあるの?」
「余計なことは聞くな」
藤原羽里は社長椅子に寄りかかってタバコを吸いながら、葉田知世の悲しげな目のことばかり考えていた。
女を虐げるなんて品のないことは彼にはできない。彼女を抱いた以上、この程度の面倒は見るべきだろう。
だが、自分が全てを解決したと彼女に知られれば、つけあがるに違いない。だから平原青に表に立ってもらったのだ。
「まさか彼女と寝たんじゃないだろうな?」
平原青が突然ひらめいたように、藤原羽里に近づき、探るように見つめた。「羽里様、初体験を...クラブで酒を売るような女に捧げたの?」
「出て行け」藤原羽里は顔を曇らせて客を追い出した。
平原青を追い払うと、彼は田中廉から送られてきた資料を眺めながら考え込んだ。
彼女が帰国したのは母親の飛び降り自殺が原因で、心臓病を患う弟がいて、私立病院で療養中。毎月の治療費は100万以上かかるという。
なるほど、全て筋が通る。藤原羽里は当然のように、葉田知世が近づいてきた理由をお金のためだと理解した。彼に結婚を迫ったのも、自分を他と違うように見せるため、彼の興味を引くための言葉遊びに過ぎない。
2000万円あれば、しばらくは持つだろう。
彼は黙って考えた。
「社長、葉田さんが一階でお待ちです。お上がりいただきますか?」フロントから内線が入った。
なぜ突然来たのか?怪我が悪化したのか?それともお金が足りないのか?
「上げてくれ」藤原羽里は動揺を見せず、ネクタイを整えた。
彼は十分な心の準備をして、彼女がどんな芝居を打つのか見ようと、ドアをノックする音に背筋を伸ばした。
「羽里、今日暇なら病院に付き合ってくれない?」葉田雲子の声が彼の感情を一気に打ち消した。
なぜ彼女が?
藤原羽里は思わず眉をひそめたが、すぐに自分の滑稽さに気づいた。
この「葉田さん」が婚約者の葉田雲子であることは当然なのに、待っていた数分間、頭の中はずっと葉田知世のことでいっぱいだったのだ!























































