第107話

エレナは急にトイレに行きたくなった。用を済ませたらすぐ戻ると告げ、マルティナを廊下に一人残していくしかなかった。

マルティナも子供ではないのだから、社交の場で一人残されることなど大した問題ではなかった。当然、断る理由もなく、彼女は頷いて承諾した。

しかし、二、三分もすると、マルティナのもとにエレナからメッセージが届いた。「ハニー、忘れ物しちゃったの。すぐ来て! 廊下の突き当たり、右側のトイレにいるわ。間違えないでね!」

その時、ちょうど男女のトイレの入り口を通りかかった怪しい人影が、狡猾にもその表示プレートをすり替えていた。

マルティナはエレナからの呼びかけを見て、いつもの口調だろうと...

ログインして続きを読む