第165話

群衆の騒ぎの中、マルティナはようやく地面から立ち上がった。彼女の視線はすぐに、まるで神のごときベンジャミンの姿を捉えた。いつ、どこであろうと、この男はそこが自分の領土であるかのように、平然と佇んでいる。その存在は心強い錨(いかり)のように、人々の心にある恐怖を鎮めてくれるのだ。

一方、レスリーは泣き出しそうなほどだった。これほど屈辱を味わったことが、かつてあっただろうか? エレナとの小競り合いで調子が狂っていたせいかもしれないが、あやうくマルチネス嬢を連れ去られるところだったのだ。レスリーは深く恥じ入っていた。だからこそ、反撃に転じた今の彼は、とりわけ冷酷だった。

相手が容赦しないというの...

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