第168話

アレハンドロは相変わらず穏やかで、誰からも好かれるような雰囲気を纏って現れた。マルティナの姿を認めた瞬間、彼の心は幸福感で満たされたようだった。そのような純粋な喜びは隠しきれるものではなく、心からそう感じている者だけが見せることのできる表情だった。

「やあ、マルティナさん。また妹がご迷惑をおかけしたようですね。申し訳ありません」

アレハンドロは二人が何をしていたのか問い質すこともなく、そう言った。彼は反射的にエレナが問題を起こしたのだと決めつけており、そこには妹に対する信用のなさが表れていた。

エレナは怒りを滲ませたものの、弁解しようとはしなかった。実のところ、彼女は兄のこと以外では怖い...

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