第90話

ベンジャミンはコートを脱ぎ捨て、慌ただしくシャワーを浴びてからマルティナの寝室へと向かった。

マルティナはまだ眠りの中にいた。部屋には一晩中稼働していたエアコンの低い唸り音が響いている。彼女の掛けていた毛布は、ベッドから滑り落ちて床に無造作に転がっていた。

彼女はシルクのスリップドレス一枚だけを身に纏っていた。その肌は陶器のようになめらかで、頬はほんのりとバラ色に染まっている。その姿を目にしたベンジャミンは胸の奥に温かいものを感じ、彼の中に渦巻いていた焦燥感が嘘のように静まっていった。

少なくとも、今の彼には感情を爆発させたいという激しい衝動はなかった。やはり、マルティナこそが彼の救いな...

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