第7章
朝の光が豪華な主寝室の窓から差し込み、今朝の激しい口論のあと、その空間に不気味なほどの静けさを投げかけていた。由紀は巨大なウォークインクローゼットの前に立ち、次から次へとドレスを革のスーツケースに機械的に畳み入れていく。
真珠のネックレス、絹の手袋、フランス製の香水、上流社会における彼女の地位を象徴するそれらの品々は、今やひどく空々しく、悪趣味にさえ思えた。隅に追いやられていた、素朴な青い木綿のドレスに指が触れる。直哉と最後に湖畔を歩いたときに着ていたものだ。簡素なデザイン、ありふれた生地。しかし、他のどんな物よりも、これこそが本物だと感じられた。
「これでいいわ」彼女は小さく呟き、...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
10. 第10章
縮小
拡大
