第352章 脅威

ベルベットのソファに気だるげに身を預け、美しい指先でタブレットの画面をスクロールする。

『氷室龍一、綾瀬美月は今朝出国。無期限のハネムーンへ』

そしてもう一つの見出し。

『綾瀬有美、母親を伴い三日前にオランダへ出発』

それらを目にしても、彼女の妖艶な美貌には微塵の感情も浮かばなかった。ただ、綾瀬有美という名前の上で、指先がほんの一瞬だけ止まった。

画面の冷たい光が、彼女の深淵のような瞳を照らし出す。小石を投げ込まれた深い淵のように、一瞬だけ微かな波紋が広がった気がしたが、瞬時にいつもの冷徹な静けさへと戻った。

タブレットを無造作に傍らへ放り投げ、手元のロックグラスを手に取ると、強...

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