第94章 真の命の恩

彼はもう言葉を発しなかった。当初の目的であった、綾瀬美月への「『初音』」に関する追及さえも、彼方へと消え去っていた。

全身の力が抜け落ちたかのように、彼は猛然と踵を返すと、よろめく足取りで綾瀬美月のオフィスを飛び出した。

今すぐに桐島源蔵のもとへ行き、事実を確かめなければならない!

乱暴に閉ざされ、震え続けるドアを見つめながら、綾瀬美月はゆっくりと椅子に沈み込んだ。全身の気力が、一瞬にして空っぽになったようだった。

誤解が解けたというのに、胸のすくような快感は微塵もない。代わりに、より深く重い疲労感と虚無感が押し寄せてくるだけだった。

やはり、私と桐島蓮の間には、いつだって誤解と無...

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