第5章
心ここにあらずといった様子で、兄からの送迎の提案を断った。
「結構です。私、バスで行きますから」
玄関に立つ鈴木隆は、車のキーを手に私の背中をじっと見つめている。その視線が、まるで目に見えない刃物のように背中に突き刺さるのを感じた。
「優、本当にいいのかい?」
彼の声には、気づかれにくいほどの心配が滲んでいた。
「今日は雨が降るかもしれないよ」
空は目に痛いほど晴れ渡り、雲ひとつない。
私は振り返らず、ただ歩く速度を速めた。
「傘は持っています」
家を出た後も、誰かに監視されているような視線を感じる。兄だろうか、それとも他の誰かか。振り返って確かめる勇気はなく、...
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3. 第3章
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