第176章 戻れない

やがて、機体は滑らかに着陸した。

西園寺琴音の長い睫毛が震え、ゆっくりと瞼を持ち上げる。

意識が覚醒した瞬間、最初に目に飛び込んできたのは、陸奥司の彫りの深い横顔だった。

なぜ彼がここに?

眠りに落ちる前、彼は確かに後ろの席に座っていたはずなのに。

「目が覚めたかい?」

反対側から聞こえた温和な男の声が、西園寺琴音の意識を完全に引き戻した。

稲崎秀信が身を乗り出し、柔らかな視線を彼女の顔に注いでいる。

「よく眠れた? もう着陸したよ」

「ええ、おかげさまで」

西園寺琴音は稲崎秀信に淡い微笑みを向けた。

「ありがとう、先輩」

その光景を目の端に捉えた陸奥司は、肘掛けに置...

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