第192章 君はただ見ようとしないだけ

西園寺琴音は微かにその声を耳にしたが、眉をひそめるだけに留めた。眠る娘の寝顔を見れば、赤の他人にいちいち弁明する気力など湧いてこない。今はただ、一刻も早く娘をベッドに戻し、安らがせてやりたかった。

廊下の向こう端に、冷ややかな空気を纏った長身の男が現れたことに、彼らは誰も気づいていなかった。

陸奥司はコネを使い、西園寺琴音の転院先がこの私立病院だと突き止めたのだ。ここまで駆けつける間、胸中にはすでに怒りの炎が燻っていた。

だが、病室のあるフロアに辿り着き、視界に飛び込んできたのは、理性を焼き切るような光景だった。

稲崎秀信が、彼の娘を抱きかかえている。あろうことか真夏は、無防備にその...

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