第4章

香椎柚葉視点

実家を出た後、海璃に次の目的地を訊かれた。

「M市よ」

私は答えた。

「M市に行くの」

そこへ行かなければならなかった――私たちが、あり得たはずの蜜月を夢見た場所へ。そして、この腕に抱くことのなかった子の、弔いのために。

五時間のフライトと二時間のドライブを経て、私たちはようやくM市に到着した。十月の陽光は暖かく、まぶしい。葡萄畑は黄金色に輝き、収穫期を迎えた谷全体が、甘い果実の香りに満ちていた。

それなのに、私の心は凍てついたままだった。

「きれい……」

海璃は感嘆の声を漏らし、カメラを構えた。

「ここが、蜜月の予定地だったの?」

「ええ」...

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