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フェンリル・ダネシュティ視点

「サバンナはもう階下に降りてきたか?」

家に入るなり、俺はアントンに尋ねた。

彼は奇妙な顔で俺を見ると、手で髪をかき上げた。

「彼女の匂いが分からないのか?」

ああ、分かる。

「以前からの、深く染みついた匂いと同じじゃないのか?」

彼は首を横に振った。

「ここ数時間、彼女はずっとフェロモンを放出しっぱなしで……それに、あんたの部屋を破壊したと思う。家具を引きずり回して、ものすごい物音を立てていた」

俺の中で怒りが燃え上がった。

「だったら、一体なぜ止めに行かなかったんだ?」

あの忌々しい抑制剤がもう効いているはずなのに。彼女がまだ発情期にあるはずがない。

「正気...

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