チャプター 59

フレイヤ視点

落下する水晶の箱に飛びかかった瞬間、時間がゆっくりと流れた。必死に伸ばした指先が、その冷たい表面をかすめそうになる。ほんの一瞬、掴めるかもしれないと思った――母を癒せる唯一のものを、救えるかもしれないと。

でも、間に合わなかった。

箱は床に叩きつけられ、胸が悪くなるような音を立てて砕けた。砕け散ったガラスの破片が、薄暗い照明を浴びて、磨かれたクラブの床にダイヤモンドのように散らばった。幻月花が転がり出て、その繊細な銀色の花びらが空気に晒される。

「いやっ!」私は叫び、その傍らに膝から崩れ落ちた。

恐怖に見守る中、花は最後の一瞬、銀色の光を放ったかと思うと、花びらが内側へ...

ログインして続きを読む