チャプター 89

リディア視点

「すぐ行く」と私は約束し、椅子から立ち上がった。

ドアに向かう前に、眠っている祖父に最後の一瞥をくれる。母に何が起きているにせよ、真実を突き止めなければならない。そして、もしかしたら……もしかしたら、母だけは、他の誰にもわからない私の痛みを理解してくれるかもしれない。


最初に鼻をついたのは病院の消毒液の匂い。私の内なる狼をいつも苛立たせる、あの人工的な清潔さだ。だが、廊下の奥へと進むにつれて、別の香りがすべてを貫いてきた――温かい陽光と微かな松の香り。その奥には、人間特有でありながらどこか心安らぐ何かの香りが潜んでいた。

ノア。

頭が追いつくより先に、体が反応...

ログインして続きを読む