第8章

身を引いて、私は駐車場の方を向く。数メートル離れたところに黒いセダンが一台停まっていて、その傍らに椎名美香さんが立ち、こちらを見つめていた。

「母さん?」良太の声は驚いていたが、怒っているわけではなかった。

美香さんはゆっくりとこちらへ歩いてくる。いつもの自信に満ちた足取りではなく、どこかためらいがちな歩みだ。

「見に来たの」と彼女は簡潔に言った。「私が見失っていたものを、理解するために」

「私たちのこと、見ていたんですね」と私は言う。それは問いかけではなかった。

彼女は頷いた。「良太の後をつけて、あなたのパン屋まで。あなたたちの会話に耳を傾け、あなたたちが築き上げたものを見...

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