第六十八章

ハンナ

彼はベンチに腰を下ろし、蓋を持ち上げた。下から現れたのは、象牙色の鍵盤だった。前置きもなく、その指が鍵盤の上で踊りはじめ、私の知らない、胸の奥に染み入るような旋律が部屋を満たしていった。

私はその場に釘づけになったまま、この矛盾に満ちた男を見つめていた。昨夜、ためらいもなく人を殺したあの手が、今はこんなにも美しいものを生み出している。演奏するにつれ、彼の表情はやわらいでいった。顔に刻まれた硬質な線がほどけ、ほとんど無防備といっていいものへと変わっていく。

曲が終わり、最後の音だけが私たちのあいだの空気に長く漂った。

「きれい……」私はそっと言った。「何の曲?」

「ショパン。夜...

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