第38章

「どうぞ、お通しして」

結城朔夜が立ち上がった。「渡辺さん、少し失礼します」

「お客さまなら、どうぞ。私はもう用事も済んだし、そろそろお暇するわね」

瑚夏は「椎名奥さん」と聞いた瞬間、反射的に母の結城紗耶の顔を思い浮かべた。

けれど、K市に椎名奥さまが母ひとりだけ、というわけでもない。

たとえば伯母だって椎名奥さんだ。

うちはK市でも指折りの名家、椎名家ではある。

――でも、椎名家はうちだけじゃない。

「朔夜……」

瑚夏の声が落ちた、そのとき。

茶室の入り口から、聞き慣れた声が届いた。

「瑚夏ちゃん?」

「……ママ」

振り向けば、優雅で美しい結城紗耶が立っていた。ほ...

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