第83章

瑚夏は言いながら席を立った。

「渡辺直樹のこと、心配してるのか?」

結城朔夜はテーブルに置いた手を、無意識にきゅっと握る。

黒く沈んだ瞳は感情を映さない。

――胸の奥に、痛みが滲んでいるのは自分だけが知っていた。

彼は、誰かに嫉妬したことなどない。

けれどこの瞬間だけは、渡辺直樹がひどく羨ましい。

瑚夏の心のいちばん柔らかい場所にいるのが、渡辺直樹だから。

……本当は、嫉妬する資格なんてないのに。

「うん」瑚夏は頷き、隠しもしなかった。「心臓が弱いの。刺激はよくない。買収のこと、まだ知らないから……先に一言、伝えておきたい」

「瑚夏……結城グループが動く買収は、途中で引き...

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