第2章
沙良視点
午後八時になる頃には、頭痛はさらにひどくなっていた。ズキン、と脈打つたびに、こめかみを金槌で殴りつけられるような痛みが走る。私はキッチンからよろよろと出て、どこか座れる場所を必死に探した。
パーティーはまだ真っ盛りで、笑い声と音楽が空気に満ちている。
世界がぐらぐらと回り始め、私は壁に寄りかかった。肌は燃えるように熱いのに、体は震えている。
「沙良、いつまでこんなところでうろちょろしてるの?」母が近づいてきて、私の様子に顔をしかめた。「顔が真っ赤よ。熱でもあるんじゃないの?」
「私……気分が、よくないの」
母は私の額に手を当て、すぐにさっと引いた。「なんてこと、すごい熱じゃない! ここで場の空気を悪くしないで。自分の部屋に戻って休んでなさい」
「お母さん、私は.......」
「ほら、今すぐ二階へ行きなさい。お客さんにうつしたらどうするの」その声には苛立ちが鋭く刺さっていた。
一縷の望みをかけて父の方を見たが、父は武のお父さんと仕事の取引について話し込むのに夢中で、こちらに一瞥すらくれない。
梨乃がその騒ぎに気づいた。「お母さん、沙良どうしたの?」
「熱があるのよ。部屋で休むように言ったわ」
「あら、よかったじゃない。どっちみち、下にいても役に立たなかったしね」梨乃は手をひらひらと振って私を追い払うと、すぐに友人たちの方へ向き直った。
涼は振り返りすらしなかった。
私は一歩ごとに倒れそうになりながら、自分の足を引きずって二階へ上がった。階下から聞こえてくる楽しげな物音が、私の心をさらに重くする。今日は梨乃の婚約パーティーで、家族にとって最も大切な瞬間の一つだというのに、私はただの邪魔者で、その病気は迷惑でしかないのだ。
自室に戻ると、ベッドに崩れ落ち、抑えきれない震えに襲われた。燃えるように熱い額に触れる。おそらく四十度近い熱だろう。でも、階下にいる誰も気にかけてはくれなかった。
午後十時になる頃には、パーティーの喧騒は静かになったが、それでも時折、梨乃の甲高い笑い声や涼のよく通る声が聞こえてきた。
ベッドに横たわっていると、熱で意識が朦朧としてくる。薄暗い光の中、壁に飾られた家族写真がぼやけて見えた。目を細めてそれらを見つめていると、子供の頃の記憶が潮のように押し寄せてきた。
あの写真は、十五歳の誕生日のものだ。梨乃はサマーキャンプから帰ってきたばかりで、見事に日焼けしている。涼は大学進学適性試験の準備中で、すでにトップクラスの大学から誘いを受けていた。そして私は? ニキビがひどいと母に説教されたばかりだった。
「沙良、もう少し自分の身なりに気を配れないの? その顔を見てごらんなさい。家族の恥よ!」と母は言った。
思春期のホルモンのせいだと説明しようとしたが、母は聞く耳を持たなかった。
「梨乃はそんなものできたことないわ。涼だってそうよ。あなたはいつも私に面倒ばかりかけるんだから」
あの頃の私は、本当に愚かだった。もっと努力すれば、もっと「良い子」になれば、いつか母の愛が私にも注がれると、そう純粋に信じていたのだ。その一心で、こっそりスキンケア製品を買い集め、皮膚科に通うためのお金を隠し持った。
肌が綺麗になれば、もしかしたら、母は私を見てくれるかもしれない。そんな淡い期待に胸を膨らませ、ようやく見つけた治療法を梨乃に興奮して話したとき、彼女と友人たちは、ただ嘲笑うだけだった。
「沙良って、スキンケアできれいになれると本気で思ってるわけ?」梨乃は電話に向かって言った。「生まれつきってものがあるのよ、わかる?」
それ以来、私はどんどん自信をなくし、内向的になっていった。自分を隠すことを覚え、どんな注目も期待しないことを学んだ。
熱のせいで、これらの記憶が痛々しいほど鮮明に蘇る。私は寝返りを打ち、涙が枕を濡らした。
午前二時、高熱は悪夢を引き起こした。
夢の中で、私は大きな円の外に立っていた。梨乃、涼、父、そして母は皆、円の内側で私に背を向けている。私は必死にその円の中に入ろうとするが、見えない力に押し出されてしまう。
「中に入れて!」私は夢の中で叫んだ。「私も家族なのに!」
しかし、彼らには聞こえない。円の中で楽しそうにおしゃべりをし、笑い続けている。
突然、父の不満げな声が響いた。「子供が二人だけだったら……私たちの人生はもっとずっとシンプルだっただろうな」
「本当にそうね」と母が同意した。「三人目は本当に余計だったわ」
梨乃と涼も、二人そろって頷いている。
反論したかった。この家族をどれだけ愛しているか伝えたかった。でも、言葉が出てこない。円がどんどん小さくなっていき、彼らが遠ざかっていくのを、私はただ見つめていた。そして、私は完全に暗闇の中に取り残された。
びっしょりと汗をかいて、私は飛び起きた。ナイトスタンドの体温計に手を伸ばす、三十九度五分。熱は悪化しているのに、階下は完全に静まり返っていた。
みんな眠っている。誰も私の様子を見に来ようとは思わなかったのだ。
翌朝九時、けたたましい物音で目が覚めた。
まだ頭がぼんやりする中、なんとか体を起こす。熱は少しマシになったようだ。階下からは、スーツケースを引きずる音や興奮した話し声が聞こえてくる。
よろよろと窓辺に歩み寄り、下を見下ろして、私は愕然とした。
高級セダンが私道に停まっている。父がトランクに荷物を積み込んでいる。梨乃はバカンス用の服に大きなサングラスをかけ、自撮りをしている。涼は大きなバックパックを背負い、わくわくした様子だ。
母がパスポートとチケットを手に家から出てきた。
「みんな準備はいいか? 飛行機は待ってくれないぞ」と父が呼びかける。
「もちろん! 南海諸島、待っててね!」梨乃が甲高い声をあげた。
ええ?いつ?南海諸島? バハマに行くっていうの?
心臓が激しく鼓動し始めた。まさか、本気で私を置いていくつもりじゃないでしょう?
私は髪もぐちゃぐちゃのまま、パジャマ姿で階下へ駆け下りた。
「待って! どこへ行くの?」
私を見た母は、迷惑そうな顔をした。「やれやれ、起きてたの。梨乃の婚約祝いに南海諸島へ行くのよ」
「私は?」
「あなた? 昨夜熱があったじゃない。まだ具合が悪いに決まってるわ。家で休んでいるのが一番よ」母はそれが世界で最も理にかなった采配であるかのように言った。
「でも……聞いてないわ! 私も行きたい!」
父は腕時計を確認した。「沙良、飛行機は二時間後に出るんだ。それに、お前は病気だろう。飛行機に乗るのは体に悪い」
「諦めろよ、沙良」涼が焦れたように言った。「家でゆっくり休んでろ。どうせバカンスなんてお前の柄じゃないだろ」
梨乃はもっと直接的だった。「マジで、沙良。あなたがいると足手まといになるだけよ。こういう場所、あなたに合わないってわかってるでしょ」
心が引き裂かれるような気がした。彼らは本当に私を置き去りにするつもりなのだ。誰一人として、私の看病のために残ろうとはしない。
「お母さん、昨日の夜、三十九度の熱があったのよ……」私は最後の望みをかけて言った。
「それならちょうどいいじゃない。日に当たらず、家で静かに休んでなさい」母は私を軽くあしらった。「冷蔵庫に残り物があるから。数日はもつわよ」
そして、彼らは車に乗り込んだ。
私は玄関に立ち尽くし、セダンが視界から消えていくのを見送った。
がらんとした家には、私しかいない。昨夜のパーティーの惨状がまだ至る所に残っている。空き瓶や皿が散らばり、キッチンのシンクは汚れた食器で溢れ、リビングのカーペットにはシャンパンの染みがついていた。
私はカオスに囲まれ、ソファに崩れ落ちた。全世界に見捨てられたような気分だった。
その時、携帯が鳴った。
父の番号が表示され、心臓が急に高鳴った。もしかしたら、何か気づいたのかもしれない。後悔したのかもしれない。私を迎えに戻ってくるのかもしれない!
私は急いで電話に出た。「お父さん?」
「沙良、ちょうど空港に着いたところだ」父の声は慌ただしく、背後では空港のアナウンスが騒がしく流れている。
「もしかして……迎えに戻ってきてくれるの?」私の声は希望に満ちていた。
「迎えに? これから搭乗するところだぞ」父は戸惑ったような声だった。「電話したのは、リビングとキッチンの掃除がまだだってことを思い出させるためだ。パーティーのゴミは全部片付けて、カーペットの染みもちゃんと落としておくんだぞ。帰ってきたときに綺麗な家が見たいからな」
心は、奈落の底へと突き落とされた。
「それから」と父は続けた。「冷蔵庫に前菜の残りがある。悪くなる前に食べるんだぞ。食べ物を無駄にするな」
「お父さん……」私の声が震え始めた。
「よし、もう搭乗だ。体に気をつけて、家の掃除を頼むぞ。五日後には戻るからな」
ピッ、ピッ、ピッ……彼は電話を切った。
私は散らかり放題のリビングの真ん中で、携帯を握りしめて座っていた。
つまり、彼らは私のことを考えてはいたのだ。私の健康を気遣ったからでも、一人でいることを心配したからでもなく、ただ汚い家に帰りたくなかったから。
彼らの目には、私は娘ですらなかった。ただの、無料の家政婦だったのだ。
