紹介
才色兼備の姉、両親の溺愛を受ける弟。そして私——「予想外の子」として生まれた、家族の重荷。
婚約パーティーでは使用人扱い、40度の熱で倒れても家族はバハマ旅行、ご近所さんの前で血筋を疑われる屈辱……。
「あなた、本当に私たちの子?」
「三人目なんて、最初からいらなかったのよ」
「誰かが雑用しないとダメでしょ?」
21年間、私は必死だった。
もっと良い子になれば、きっと愛してもらえるって。
でも、あの夜。
私は気づいてしまった。
全部、無駄だったって。
チャプター 1
沙良視点
頭が割れそうに痛い。それでも、この椅子を運ばなきゃいけない。今日は姉の梨乃の婚約パーティーで、誰もが姉にかかりきりになる中、私はただの無料の労働力だった。
「沙良! ぐずぐずしないで! お客様は二時にいらっしゃるのよ!」
母さんの甲高い声が、裏庭の空気を切り裂いた。額の汗を拭い、ズキズキと痛む頭をこらえながら作業を続ける。
梨乃はパティオのパラソルの下、シルクのローブをまとって優雅にコーヒーを飲んでいた。私がそばを通りかかると、ちらりとこちらを見て眉をひそめる。
「もう、沙良、ひどい顔よ。今日は『私』の大事な日なの。台無しにしないでよね」
「ちょっと頭痛がするだけ.......」
「だったら薬でも飲みなさい」母さんが現れ、あからさまな嫌悪感を込めて私を上から下まで眺めた。「まったく、本当にみっともないわ。お客様を怖がらせないで。あなたはキッチンにいて。目に入らないように」
「お母さん、私もお客様のお出迎えを手伝えるよ」
「あなたが? 本気で言ってるの?」その声には、純粋な侮蔑がこもっていた。「自分の姿を見てみなさい。この家族の一員にだって見える? 梨乃、あなたどう思う?」
梨乃は顔を上げる気もないらしい。「キッチンに置いとけばいいじゃない、お母さん。こういう場に向いてない人もいるのよ」
その時、涼が階下から降りてきた。髪は少し乱れていたけれど、それでも十分に格好いい。
母さんの表情が一変する。「あら、涼! 昨日のパーティーはどうだった? 今日はお姉ちゃんのために最高の状態でいてくれなきゃ困るわよ!」
「もちろんさ、母さん。武が親父さんのビジネスパートナーを連れてくるんだ。大物ばっかりだよ」
「素晴らしいわ! 梨乃は本当に素晴らしい人を捕まえたわね!」
私は静かに裏庭のがらくたを片付け始めた。一つ一つの動きに細心の注意を払いながら。
二時きっかりに、お客様が到着し始めた。
裏庭は、魔法にかけられたかのように、瞬く間に上流階級の社交の舞台へと姿を変えた。きらびやかなブランドドレスに身を包んだ女性たちが、香水と笑い声をまき散らしながら優雅に闊歩し、完璧にプレスされたスーツ姿の男性たちは、軽やかに談笑しながらシャンパングラスを傾ける。
カチン、カチンと、グラスの触れ合う音があちこちで響き渡る。その華やかな群衆の中心で、梨乃は鮮烈なピンクのカクテルドレスを纏い、まるでスポットライトを浴びた主役のように、誰よりも強く輝いていた。
「梨乃さん、すごく綺麗!」
「あのドレス、素敵だわ!」
「武さんは幸せ者だな!」
私は、会場の片隅で、地味な青いワンピースに身を包み、風景の一部のように立ち尽くしていた。この煌びやかな空間に、自分が完全に場違いな異物であるという感覚が、肌に張り付くようにまとわりつく。
いつだって、こうだった。梨乃と涼は、絵画のように美しく、天賦の才に恵まれていた。対して私は、どこにでもいる平凡な存在。二人は何でも器用にこなし、常に周囲の喝采を浴びたが、私はただ「普通」であることしかできなかった。
それでも、私は信じていたのだ。人一倍努力し、誰よりも「いい子」でいれば、いつかお母さんとお父さんも、あの二人と同じように、私を心から愛してくれるはずだと。その淡い期待だけが、私を突き動かす唯一の原動力だった。
「皆様!」お父さんが不意に立ち上がり、シャンパングラスを掲げた。「我が家の子供たちを紹介させてください!」
私は息をのみ、自分の番を待った。
「長女の梨乃です!」お父さんの声は誇りに満ちていた。「H大経営学部を卒業し、この度、武君と婚約いたしました。これ以上ないほど誇りに思います!」
割れんばかりの拍手。梨乃は優雅に手を振った。
「そして、息子の涼!」お父さんは満面の笑みを続ける。「青浜市大学のトップ学生で、未来のビジネスリーダーです!」
さらに熱烈な拍手が湧き起こる。涼は自信ありげに頷いた。
そして、お父さんの視線が私を捉えた。その声色は、途端に平坦で事務的なものに変わった。「ああ、それから三番目の娘の、沙良です」
相変わらず.......それだけだった。何の飾りもなく、賞賛もなく、今日を完璧な一日にするために私がしてきたことには一切触れられなかった。
まばらな拍手が、まるで哀れみのように感じられた。顔が燃えるように熱く、胸が締め付けられて肺が押し潰されそうだった。
「ご家族での記念撮影でーす!」カメラマンが声をかけた。
お客様が見守る中、皆が庭の中央に集まった。
「梨乃さんが真ん中、健さんとキャロルさんはその両隣に。涼君はこちらへ」カメラマンが立ち位置を指示する。「沙良さんは後ろに――もっとあっちの方へ。梨乃さんが隠れないように」
私は機械的に後ろの隅へ移動させられた。ほとんどフレームの外だ。ファインダーの中にいる完璧な四人家族を眺めながら、私はこの写真の主役には絶対になれないのだと、ふと悟った。
写真撮影が終わり、パーティーが続く中、隣人の村上さんが突然冗談めかして言った。
「しかし本気でさ、沙良ちゃんは本当にあなたの子? だって、他の誰とも全然似てないじゃない……」
空気が凍りついた。誰もが好奇と疑問の入り混じった目で私を見つめている。
顔が真っ赤になり、心臓が激しく打ち鳴らされた。私は助けを求めて必死にお母さんとお父さんを見た。どうか、私の味方をしてくれるようにと。
お父さんは気まずそうに笑った。「ははっ! 遺伝ってのは不思議なものですよ。隔世遺伝なんてこともありますからね」
母さんも笑いながら口を挟んだ。「そうそう、きっと家系のずっと昔の誰かに似たんでしょうね」
二人の返事が、氷水のように私に突き刺さった。「もちろん私たちの子です」とは言わなかった。私の見た目について、言い訳をしたのだ。
梨乃は手で口元を隠してくすりと笑った。涼は聞こえないふりをしている。誰一人として、私を庇ってはくれなかった。
まるで裁判にかけられ、皆から指をさされて裁かれているような気分だった。屈辱が全身を焼き尽くす。
「私……キッチンを見てきます」私はそう呟き、その場から逃げ出した。
私は、何かに追われるようにキッチンへと駆け込んだ。背中を冷たい壁に押し付け、荒い息を何度も吐き出す。ようやく、張り詰めていた心が限界を迎え、堰を切ったように熱い涙が瞳から溢れ出した。
五時になる頃には、パーティーはお開きムードになっていた。
私はキッチンで皿を洗っていた。指先は水でふやけている。リビングから声が聞こえてきた。盗み聞きするつもりはなかったけれど、次に聞こえてきた言葉が、私の最後の希望を打ち砕いた。
「本当に恵まれてるわね。上のお二人がとにかく優秀で」村上さんの声だ。
「ええ、本当に。梨乃と涼は私たちの誇りよ」母さんの声は満足感に満ちていた。「あの子たちには一度も手を焼かされたことがないわ」
「沙良ちゃんは?」
沈黙。
「三人目は……まあ、予期せぬ贈り物だったとでも言いましょうか」お父さんの声は疲れていた。「正直、子供は二人だけのつもりだったんです。沙良は……サプライズでしてね」
「悪い子じゃないんだけどね」母さんが付け加えた。「でも、ご覧の通り、上の二人ほど……才能に恵まれなかったっていうか」
「時々、私たちの忍耐力を試すためにいるんじゃないかと思うよ」お父さんはため息をついた。「だけど、誰かが家事をやらなきゃいけないからねぇ?」
彼らは皆、笑った。
カシャン、と鋭い音を立てて、皿が手から滑り落ち、シンクの中で砕け散った。
一日の希望と努力が、その瞬間に崩れ去った。
床にゆっくりと滑り落ちながら、こらえていた涙が、ついに溢れ出した。
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